専門家の頭の中では、いったい何が起きているのか
(stdy.blog)概要
- 米国の心理学者 ゲーリー・クライン は、消防士、救急外来の看護師、航空機のパイロットなど、切迫した現場で専門性を発揮しなければならない人々を数十年にわたって研究してきた「専門性の専門家」である
- クラインは、専門家への詳細なインタビューと観察を通じて、問題状況に直面したときに彼らの頭の中で何が起きているのかを、認識先行意思決定モデル(RPD: Recognition-Primed Decision Model)として抽象化した。数十年にわたるさまざまな研究で、実際に多くの分野の専門家がこのように行動していることが明らかになっている
- RPDモデルを応用すると、専門家からも、LLMからも、うまく学べる
RPDモデルの5段階
(RPDの図式は元ブログにあります)
- 専門家が問題状況を経験する。
- 状況の中のいくつかのシグナルに注目し、過去の経験とパターン照合を行う。
- うまく照合できると、行動戦略(何を目標にどんな行動を取るか、その結果どうなるか)が大まかに思い浮かぶ。うまく浮かばなければ追加情報を収集し、別のシグナルも見ながら再度照合する。
- 思い浮かんだ行動戦略を頭の中でシミュレーションする。これで問題は解決するか? うまくいかなさそうなら次の行動戦略に移ってシミュレーションする。
- これはいけそうだと思えるものがあれば実行する。すると状況が変わり、1に戻る。
これは、私たちが専門性を高めるために専門家から何を学ぶべきかも示唆している
- 専門家は問題状況を認識するために、どのシグナルをどんな順序で観察しているのか?
- 特定の状況で問題解決のために、どの行動戦略から先に使うのか?
- なぜ他ではなくそれを選んだのか? どうシミュレーションしたのか?
ジュニアとしてコードレビューで学ぶ
「変数名 XX は短すぎますね。変数名は理解できる程度に長いほうがよいです。YY に変えますか?」のようなコメントを受けたなら、「はい」と返すだけでなく、RPDを使ってシニアを少し困らせてみよう
- 変数名が短くても問題ない状況はありませんか?
- では、ここで変数名が短すぎるとどのように判断されたのですか?
- 変数名 XX をそのまま使った場合、あとでどんな問題が起こりそうですか?
- YY という変数名は、どうやって思いついたのですか?
- 後になって YY が不適切になりそうな状況があるとしたら、どんな場合ですか?
- そのときは変数名をどう変えそうですか?
多少困らせても文句を言わないLLMに対しても有効な質問であり、「こんなフィードバックを受けたので、RPDを使ってこうした質問を提案してほしい」と頼むのもよい
追加資料
- 疑う代わりに判断基準を教えてください: RPDを念頭に置きながら、シニアがジュニアを成長させるにはどんな会話をすべきかについて書いた記事
- どうやってその判断ができたのか: 問題を見た瞬間に原因を把握できたデバッグ事例で、自分がどうしてそれができたのかを書いた記事。ここで扱う CDM(Critical Decision Method)もまた、専門家の頭の中を探るためにゲーリー・クラインが開発した質問法である
- The RPD Model: Criticisms and Confusions: RPDモデル発表後に受けた批判と、RPDに対する誤解について、ゲーリー・クラインが2021年に自ら反論した記事
- Source of Power: How People Make Decisions: RPDについてさらに詳しい説明が収められた、ゲーリー・クラインの1999年の書籍
LLMを活用する
LLMがゲーリー・クラインの立場に立ち、RPDとCDM(Critical Decision Method)を活用してよい質問を組み立ててくれるプロンプトテンプレートを作った。試してみると、質問の質はかなりよい
もちろん現実には、シニアがレビューしてくれたときに「ちょっと待ってください」と言ってLLMに聞いてから質問するのは難しいだろう。だから長期的には、LLMが生成してくれる質問を自分の中に取り込み、自分で生成できる人へと成長するほうが有利である
8件のコメント
面白かったです。
面白い探求ですね。楽しく読ませていただきました。
本『タレント・コード』で語られている深層練習の、具体的な方法の一つになりますね。良い文章をありがとうございます。
ああ、はい、そのとおりです。深い練習に興味を持たれたなら、その概念の生みの親(?)であるアンダース・エリクソンの『1万時間の再発見』もとてもおすすめです。
文章も良いですが、このようなことに関心を持って学ばれている姿も素敵だと思います。
ありがとうございます。長年にわたって検証されてきた研究を学び、それをAIに応用するのは面白いですね。
興味深いテーマですね。よく読ませていただきました。
ありがとうございます(笑)