- 以前は TechCrunch, Hacker News, Fortune Term Sheet くらいを見ていればスタートアップの流れを把握できたが、技術の一般化とメディアの懐疑的な視線により、伝統的メディアとスタートアップのあいだでナラティブの衝突が生じた
- これに対する反動として、創業者やビルダーたちが 自ら物語を作り広める、ブログとニュースレター中心のエコシステム が爆発的に成長した
- COVID以降、とりわけ Not Boring, Lenny’s Newsletter, The Generalist, Pragmatic Engineer など、多数の創業者/VC/エンジニア発のメディアが登場した
- こうした現象は、17〜18世紀の知識人による書簡ネットワーク『Republic of Letters(文芸共和国)』に似ており、今日ではブログ、ポッドキャスト、Twitter、YouTube などでそれが実現されている
- 私たちは今、「資格ではなく洞察で評価される時代」、すなわち技術中心の 『文芸共和国』 の新たな全盛期を生きている
Startup Storytelling
-
既存メディア環境の中心
-
テックが主流になり始めた変化
-
主流メディアの懐疑的な視線
- メディアはもともと懐疑的な性質を持っていたが、次第にテック企業への不信が標準になっていった
- 制度全般に対する 信頼の低下 は2010年代にテック産業にも広がり、新聞への信頼度は16% にとどまっている
- Axios、The Information のような新興メディアも、ビッグテックの問題や政治に焦点を当てたり、「スタートアップ批判」というジャーナリズム倫理を選択的に行使するようになった
-
技術ナラティブの所有権を取り戻そうとする動き
- その結果、テック業界の人々は 自分たちの物語を自ら書くため、ブログ生態系を中心とした草の根のナラティブ運動を始めた
- これは次第に 「分散型のナラティブ生産マシン」へと発展し、「技術を作る人々による、彼らのための物語」が主導権を取り戻した
Birth of The Blogosphere
-
ブロゴスフィアの始まりとテックメディアの起源
-
投資業界の伝統的な書く文化とその影響
- Howard Marks と Warren Buffett は、数十年にわたり投資の世界で書くことを通じて信頼を築いてきた代表的人物だ
- とりわけBuffettは1959年の 投資パートナーシップ時代 から文章を書いており、現在に至るまで年次書簡を通じて読者とコミュニケーションを取っている
- テック業界の人々も、Buffettの書き方から 明晰な思考とナラティブの所有権 という点で影響を受けたが、資産形成の方法は異なっていた
-
個人ブログから専門分析へ
-
大衆性と専門性のあいだのバランス
-
初期のスタートアップメディアの姿
- 最初の10年間、スタートアップメディアは、偉大な個人ブロガーたちの文章と少数の専門メディア、そして TechCrunch, The Information のようなテックジャーナリズム媒体の混合体だった
- 一部の大手メディアもときおりスタートアップ報道に参加したが、深さや継続性は不足していた
- そうしているうちに、変化が始まった
"Business Is The New Sports"
-
パンデミックが引き起こしたスタートアップメディアの大爆発
-
スタートアップメディア創作者たちの躍進
- パンデミックの前後で、ニュースレター基盤のメディアが急成長した
-
ポッドキャストネットワークの蓄積と爆発
-
新たな「ミーム生産手段」の定着
- "The Meme Economy"という表現のように、スタートアップのナラティブを作る生産装置が定着し、創作のハードルが下がった
- 技術・資本・文化的背景を持つ人々が、それぞれのやり方で「企業の物語」を広められる基盤が整った
-
前例のない企業ストーリーテリングの拡散
- 従来の記者ではなく、現場で直接技術を作っている人々が書いた物語が中心になった
- パンデミック後の時代精神――楽観主義、ユーモア、アメリカ的なダイナミズム――と重なり、スタートアップと起業家のストーリーテリングの爆発的増加へとつながった
The Newfound Republic of Letters
-
21世紀型の「知的コミュニティ」としてのスタートアップメディア
-
新しい Republic of Letters の4つの特徴
- 知識より名刺が重視されていた従来構造の崩壊 → インサイトによって地位を得る時代
- 中央集権的な権力の解体 → 役職より「考える人」中心の影響力
- 既成制度への不信 → 新しい制度(大学、報道機関、研究機関)設立の動き
- 知識生産への集団的な献身 → ブログ、ポッドキャスト、オープンソースコードの爆発
-
テック分野で現れている具体例
-
多様な形の参加とコンテンツ生産
- ブログ: Mostly Metrics, Digital Native
- ポッドキャスト: Age of Miracles, AI & I
- YouTube: Cleo Abram, MKBHD
- プラットフォーム: TBPN, Sourcery, Newcomer, The Free Press
- 機関: IFP, Arc Institute, Long Now, Astera Institute
- 出版社: Stripe Press, Scribe Media
- 印刷媒体: Arena, Asimov Press, Works in Progress, Palladium, The New Atlantis, Colossus Review
- 映像制作会社: Story Co., Coinbaseのドキュメンタリー
-
情報過剰と新たな課題
- ニュースレターが100万購読者を超え、ポッドキャストがチェイス・センターで生中継される時代
- コンテンツの量が幾何級数的に増えるなか、signalとnoiseを見分ける能力、潜在的な声を発見する構造が新たな課題となっている
I Need To Speak
-
ポッドキャストの急増: 語りたいという欲望の表出
- テック分野のポッドキャストは Invest Like The Best, 20VC, Stratechery あたりが中心だったが
- 今日では Pirate Wires, Sourcery, No Priors, MAD Podcast, How I Write などへと多様化している
- ブログ起点のメディアもポッドキャストへ拡張: Lenny’s Podcast, Not Boring Radio, The Generalist Podcast
- VCやスタートアップ創業者たちも多数のポッドキャストを開設: BG2 Pod, Uncapped, Generative Now, Tech Today など
- Colossus, Turpentine のような ポッドキャストネットワーク も形成され、産業化の流れが鮮明になっている
-
ベンチャーキャピタルのメディア化実験
-
ポッドキャストは減っているが、テック分野は例外
- 全体としては COVID 後に新規ポッドキャスト数は減少しているが、テックシーンはむしろ語りたいという欲望がより強い
- コンテンツが過剰でも、語るべき「中身」を持つ人たちが引き続き声を上げている
-
ブログも爆発中: Substack起点の物語拡張
-
コンテンツの量的膨張がもたらす流れ
- 情報の爆発はしばしば圧倒感を生むが、同時に アイデアの競争を加速させる
- 組織はますます 「go direct」 を志向 → 仲介者なしに直接語る技術を磨く場
- 技術、楽観主義、進歩など 自分が信じるメッセージを広めたい動機 がメディア拡大の原動力
- 単に見られるためではなく hyperlegibility(超明瞭性)、つまり自分の思考様式を明確に示す過程としてコンテンツ生産を理解している
Pursuing Hyperlegibility
-
Hyperlegibility: 自分のための読者を明確に狙う
- Packy McCormick は Hyperlegibility とは、明確さを超えて「誤解の余地がない」レベルでアイデンティティを示すこと だと定義する
- 単に誰にでも理解できるメッセージではなく、自分のメッセージを見分けてくれる人に正確に刺さるメッセージ が重要だ
- 大衆全員を満足させる話は、しばしば何の意味もないメッセージになりやすい
- Palmer Luckey の言葉のように、「自分の『ride or die』な1%だけが分かってくれればいい」 という視点が核心だ
- 真のハイパーレジビリティは、無作為な大衆ではなく ターゲット集団に正確に届くマスコミュニケーション である
-
For The Vibes: インターネットは「ヴァイブ」を拡張する装置
- ブログ、ポッドキャスト、コンテンツは本質的に 宇宙へ自分のヴァイブ(vibe)を放つ行為 であり、そこから生まれる偶然の縁や機会こそが本質だ
- 過去の Blogger や RSS ベースのブログ購読時代にも、この感覚は存在していた
- COVID 後、テクノロジーが私たちの生活のあらゆる領域を飲み込み、人とつながる方法さえ オンラインが支配 するようになった
- 現実よりも多くの友人や同僚がオンライン上に存在するようになり、この現象こそが 本当のメタバースの姿 である
- 「メタバースはVRヘッドセットではなく、Vibe-o-sphereだ」 という洞察は、成功するにはこの感覚的な領域を理解し活用しなければならないことを示している
Building In The Vibe-o-Sphere
-
コンテンツを作る理由は「自分自身のため」
- インターネット上のコンテンツ量はすでに爆発しているため、「わざわざ自分がこれ以上作る必要があるのか」という懐疑は多い
- しかし Dwarkesh Patel の言うように、「創作のフライホイールは、オーディエンスの成長よりも創作者自身の成長のためにある」
- コンテンツ制作は外部の反応よりも 内面の変化を引き起こす訓練 である点に価値がある
- 誰も聞いていなくても書き、話し、作れという助言は、結局のところ 自分自身の進化 のためである
-
シンプルなアイデアを真剣に押し進めよ
-
どこから始めるべきか? 「公開」でなくても構わない
- 必ずしもSubstackやXで公開して書く必要はない
- 友人たちとのグループチャットもすばらしい出発点であり、私的な空間で議論しながらアイデアを発展させられる
- Katherine Boyle: 「グループチャットは、お互いの考えを深く磨き上げる21世紀の討論の場だ」
- ときには、自分が読みたい考えを集めてくれる一人が会話全体の75%を担うこともある — その人になれ
-
クリエイターはどうすれば持続可能なのか?
- a16zは「VCとして収益化するメディア企業」と言われるように、創作そのものよりも結びついたビジネスモデルのほうが重要
- TBPNのようなところは、広告やスポンサーを積極的に受け入れて持続可能性を確保している
- 一方でQuartzは、収益化の失敗によって姿を消した事例だ
- 自分が追求するメディアのNorth Starは何なのかを、自分自身で明確にしなければならない(認知度、コミュニティ、採用、リクルーティング、投資など)
This Is Personal
-
スタートアップに夢中になったきっかけ: 物語の力
- この文章は単なるメモだったが、書いているうちに自分の出発点(Root)が物語にあったことを自覚するようになった
- きっかけはStartUpポッドキャストで、創業者がポッドキャスト会社を立ち上げ、その過程をポッドキャストで扱うというメタな設定に強く惹かれた
- 投資家Chris Saccaにピッチする場面、共同創業者と交渉する難しさなど、実在の人々の物語に共感して引き込まれていった
-
スタートアップはすなわちストーリーテリング
- Acquiredポッドキャストを2015年から聴き始め、文章も書き続けてきた
- Contraryに加わった後、最初にやりたかったこともContrary Researchというメディア/リサーチプラットフォームの構築だった
- 結局のところ、創業メディアの進化の歴史をたどりながら感じたことは、単なる観察ではなく自分自身の旅路そのものだった
-
まだ語るべき物語はたくさん残っている
Appendix
Reinventing Knowledge 要約
-
核心概念: 新たな知識制度の循環
- 『Reinventing Knowledge』は、西洋文明が進歩する原動力として、既存の知識を保存し、新しいアイデアを社会へ伝える制度の発明を提示する
- 過去2,500年間にわたり、文明は危機 → 制度革新を繰り返しながら、6つの知識制度を生み出してきた: 図書館、修道院、大学、研究所、学会、インターネットなど
-
繰り返される5つのパターン
- 危機 → 再創造: 時代の衝撃と技術(パピルス、印刷術、Webなど)が、新たな知識伝達の構造へと再編する
- 制度 > 個人: 偉大なアイデアよりも、持続可能な制度の中に定着する平凡なアイデアのほうが長く残る
- コストを伴う献身の構造: 修道院の誓約や教授のテニュアなどは、ノイズをふるい落とし信頼を与える構造として機能する
- 情報 ≠ 知識: 単なる情報ではなく、キュレーション、討論、検証、世代を超えた継承を通じて知識は完成する
- 現代の危機: インターネットはユートピア的な知識流通網に見えるが、検証されていないコンテンツの氾濫によって知識基盤への信頼が揺らいでいる
-
スタートアップメディアとのつながり
- 学界やジャーナリズムよりもRepublic of Lettersに近い構造
- Substack、Discord、開発者ブログなどは、中央集権的なキャンパスよりもネットワークベースの影響力を持つ
- 文章と対話によって評判を得て、信頼を築く
- 信頼を失った既存制度の代わりに、技術コミュニティが独自の検証/討論構造をつくりながら知識を広めている
- 重要なのは既存の要約やキュレーションよりも、新しい知識の生産(playbook、コード、デモなど)である
-
「New Republic of Letters」を説明する10の引用
- 「Republic of Lettersは、もともと郵便でやり取りされた手書きの手紙から始まり、その後、印刷された書籍やジャーナルへとつながっていった国際的な学びの共同体と定義できる。」
- 「この制度は、前例のないレベルの**破壊的変化(disruptive change)**に完璧に適応した構造であり、新たな知識の生産を基盤としてその正統性を確立した。」
- 「Republic of Lettersは、他のどの共和国と同じくその市民たちによって運営されており、公式な資格証、学位、証明書は存在しなかった。市民的規範を守る人なら誰でも参加できた。」
- 「この共和国は国境を超えただけでなく、世代をも超えていた。 これは学者たちを時を超えて結びつける協働プロジェクトだと明示的に見なされていた。」
- 「Republic of Lettersのコミュニケーションは、実際に対面することのない場合が大半であり、参加者たちは互いに一度も会わないまま数十年にわたって手紙を交わすことも珍しくなかった。」
- 「手紙を書くことは、まったく異なる種類の美徳を強調した。**礼儀、友情、寛容、気前の良さ、そしてとりわけ寛容さ(tolerance)**などである。」
- 「エラスムスは、自らの手紙を**丹念に編集して出版することで、ヨーロッパ初の『有名知識人(celebrity intellectual)』**となった。」
- 「私たちが見てきたように、手紙、書籍、博物館は大学のさまざまな実践を変え、Republic of Lettersはそれらすべてを包摂する傘のような制度(umbrella institution)として機能した。」
- 「初期インターネット開拓者たちの『サイバーカルチャー(cyberculture)』は、宗教に政治的に染められた中世の大学から脱した近代初期のRepublic of Lettersと驚くほどよく似ている。」
- 「いわゆる『情報時代(information age)』を称賛する人々はしばしば、知識とは情報を集めることではなく、人々をつなぐことだという事実を忘れている。」
- これらの引用は、分散された自発的ネットワークがいかに既存の階層的構造よりも速く革新できるかをよく示しており、これは今日のスタートアップメディア生態系に再び現れているダイナミクスでもある。
2件のコメント
そういえば、HackerNews にはたまに行っても、TechCrunch は直接見に行かなくなってから本当にかなり久しい気がしますね。
最近のメディアは、記事とスポンサーの優先順位が逆転してしまったように感じますよね。