1 ポイント 投稿者 GN⁺ 2025-10-08 | 1件のコメント | WhatsAppで共有
  • John ClarkeMichel H. DevoretJohn M. Martinisは、従来は微視的領域でのみ可能とされていた量子現象を、手に持てるほど大きなシステムで実現した
  • 彼らは超伝導電気回路を通じて、複数の粒子から成るシステムにおける巨視的量子トンネル効果エネルギー量子化を直接実証した
  • 実験ではシステムがトンネル現象によって状態を変化させ、エネルギーを特定の大きさだけ吸収または放出する
  • 今回の研究は、巨視的スケールで観測可能な量子効果と、その理論的・実験的意義に対する深い理解をもたらした
  • この成果は、量子技術の開発と量子コンピュータ実現の基盤となる重要な実証である

量子的性質を人間のスケールで観測

2025年ノーベル物理学賞の受賞者であるJohn ClarkeMichel H. DevoretJohn M. Martinisは、実験を通じて量子世界の特異な現象が手に持てるほど大きなシステムでも現れることを証明した。彼らが製作した超伝導電気回路は、状態間でトンネル現象を示し、これはまるで壁を貫いて移動するかのようである。また回路は、量子力学の予測どおり、特定の大きさのエネルギーのみを吸収または放出する。

革新的な実験シリーズ

  • 量子力学は個々の粒子レベルで現象を説明するが、日常的な巨視的現象では量子効果は表れない
  • しかし、Clarke、Devoret、Martinisは、超伝導体で構成された電気回路において、多数の粒子が1つの巨大な粒子のように運動し、巨視的量子トンネル効果を実験的に検証した
  • この現象は、従来の原子核崩壊のような量子トンネル効果の活用例とは異なり、数十億個の粒子が同時に同期して運動するシステムで確認された
  • 実験回路には2つの超伝導体と導電性をもつ薄い絶縁壁(Josephson junction)を置き、Cooper pairの集団運動を1つの波動関数として記述した

トンネルと境界を越える量子力学

  • 量子トンネル効果は単一粒子ではすでによく知られた効果だが、今回の受賞者たちは、これが多数の粒子において同時に、しかも巨視的規模でも現れることを証明した
  • Cooper pairは同一の量子状態で結びつき、1つの巨大な粒子であると同時に、集団的な波動関数で記述できる
  • Josephson junctionは量子現象研究の中核素子であり、2つの超伝導体の間の薄い絶縁領域を通じて、波動関数の相互作用と巨視的量子効果を探る実験を可能にする

研究グループの実験的挑戦

  • John ClarkeはBerkeleyで超伝導体とJosephson junctionに関する多様な物理学研究を率いた
  • Michel Devoretは博士研究員として、John Martinisは博士課程の学生としてClarkeと協力し、3人は巨視的量子トンネル効果の実験的証拠の確保と精密測定に成功した
  • 実験ではJosephson junctionに微弱な電流を供給し、最初は0ボルトの状態を観測するが、一定時間が経つとトンネル効果によって電圧が発生する量子的変化を数値的に記録した
  • 同じ実験を何度も繰り返して統計データを蓄積し、原子核崩壊の半減期測定のようにトンネル待ち時間の分布を分析した

エネルギー量子化と実験的精密性

  • 実験の結果、Cooper pairの集団は、まるで1つの巨大な粒子のように同時的なエネルギー状態変化を起こし、特定の大きさのエネルギーだけを吸収・放出するエネルギー量子化も確認された
  • マイクロ波を注入してより高いエネルギー状態へ励起すると、システムはトンネル待ち時間の短縮を示し、量子力学の予測と一致した

実用的・理論的意義

  • 既存の巨視的量子現象(例:レーザー、超伝導、超流動)は、物質の個別の量子的性質が合わさった結果である。しかし今回の実験は、巨大な集団そのものが量子的状態にあることを実証した
  • この実験は、Schrödingerの猫という思考実験に比肩しうるものであり、多数粒子の集団が実際に量子力学の法則に従うことを証明した
  • 巨視的量子状態は、人工原子などの新たな実験プラットフォームや、量子コンピュータの量子ビット(qubit)実装など先端技術開発の基盤となる
  • 特にJohn Martinisは、この実験的成果を土台として、量子ビットの0・1状態を回路上で直接実装する量子コンピュータ実験も発表した

結論

  • 2025年ノーベル物理学賞は、巨視的電気回路における量子トンネル効果およびエネルギー量子化を実験的に初めて実証したClarke、Devoret、Martinisに授与された
  • この研究は、量子力学の実験的および理論的進歩と、新しい技術領域を切り開く契機をもたらした

追加情報


2025年ノーベル物理学賞受賞者

  • John Clarke: 1942年、英国ケンブリッジ生まれ。1968年にUniversity of Cambridgeで博士号取得。現在はUniversity of California, Berkeley教授
  • Michel H. Devoret: 1953年、フランス・パリ生まれ。1982年にParis-Sud Universityで博士号取得。現在はYale University / University of California, Santa Barbara教授
  • John M. Martinis: 1958年生まれ。1987年にUniversity of California, Berkeleyで博士号取得。現在はUniversity of California, Santa Barbara教授

「電気回路における巨視的量子トンネル効果およびエネルギー量子化の発見」

1件のコメント

 
GN⁺ 2025-10-08
Hacker Newsの意見
  • 私はノーベル賞受賞者から電子工学を学んだ。
    物理学のキャリアと博士課程の中で、アナログ電子工学は最も難しく、同時に最もやりがいのある授業だった。
    一晩中研究室でフィルタを動かそうと格闘し、数時間寝てまた夜明け前に研究室へ戻ったことを覚えている。
    大半は先延ばしのせいだったが、あの時代は本当に素晴らしい思い出だ。
    当時いちばん理解できなかった概念が電流源というものだった。
    電圧源にはなじみがあったが、電流源はどこか魔法のように感じられた。
    Martinis先生に質問したが、先生は私がなぜ理解できないのか理解できない様子だった。
    答えはフィードバック(フィードバック制御)。
    良い電圧源にもフィードバックが必要だ。
    先生にとってはフィードバックがあまりに当たり前すぎて、それが核心だと口にしなかったのだが、私は制御という概念自体を聞いたことがなかった。
    結局、先生のラボに学部研究生として応募したが断られた。
    個人的には電流源の概念を理解できなかったせいだと思っているが、応募時期が遅すぎたのかもしれないし、A- の成績(先延ばしのせい)だったからかもしれない。
    最終的に生物物理学の研究者のもとへ行き、そこからまったく別の道である生物物理学者になった。
    今振り返ると幸運だったと思う。
    生物物理学が自分の人生の一部になるとは思ってもみなかった。
    もちろん量子物質や QI/QC 分野に進んでいても面白かったかもしれない。
    今は Mike and Ike(教科書)で勉強しており、本当に興味深く感じている。
    博士号取得後には産業制御 & 自動化のスタートアップを共同創業した。
    今ではフィードバック、そして電流源についてかなりよく理解している(時間はかかったが、結局は学んだ)。
    (ちなみに、良い電圧源は抵抗を調整し、良い電流源は電圧を調整するという点も重要だ。私が電流源をより難しく感じた理由は、電圧源(バッテリー)に慣れすぎていたことが大きい。実際にはもっと批判的に考えるべきだった。現実には理想的な電圧源(非常に高い抵抗)は比較的簡単に作れるが、理想的な電流源(0抵抗)は本当に難しいということも分かった)

    • 「良い電圧源は抵抗を調整し、良い電流源は電圧を調整する」という表現は少し混乱を招くかもしれない。
      電圧源が電流を、電流源が電圧を調整するという意味なのか聞いてみたい(大した意味はないのかもしれないが、ただ気になったので書いてみる)。

    • もし理想的な電流源を作って 50mA に設定し、それを誰かに突き刺したらかなり怖そうだ。

    • 「よく理解している*」と書いたのはタイプミスだった(修正できなくて残念)。

    • フィードバックなしで非効率だが固定電流源を作る方法もある。

      1. 回路で電流を消費する側の最大抵抗を測定する
      2. その抵抗より何倍も大きい抵抗を用意する
      3. 大きな抵抗に非常に大きな電圧源をつないで、望む電流が流れるように設定する
      4. 電流を消費する回路をこの大きな抵抗と直列につないで動かせばよい
  • Fred Ramsdell が今回、2025年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
    現在は完全に「オフグリッド」のハイキング中で連絡が取れないという。
    関連記事

  • Devoret と Martinis も実際に量子工学を新たな段階へ導いている。
    Devoret は Google Quantum AI で、Martinis は Qolab で活動している。
    私の友人も Devoret のもとで博士課程にいて、Martinis と働いている人も知っている。
    今回のノーベル賞でお二人とも多くの招待講演や基調講演の依頼を受けるだろうから、指導教員の顔をまた見られるのか気になっている。

    • 招待講演はたいてい本人が選べるが、一つだけ例外がある。
      ノーベル賞の規定によれば、受賞者はノーベル賞選考機関が選んだテーマについて、6か月以内に必ず一度講演しなければならないというルールがある。
      2024年ノーベル物理学賞(ニューラルネットワークの起源関連)の講演も授賞式直前に行われ、スウェーデン放送の教育チャンネルと YouTube で視聴できる。
      関連動画リンク

    • Devoret が Schoelkopf なしで単独で注目されている姿には少し違和感がある。

  • UCSB 物理学科で過ごしていたときに Martinis 教授に会った。
    Martinis 教授は実験物理学者の中でも、電子工学と計測について一般的な電気工学専攻者よりはるかに多くの知識を持っていた。
    教授が開発した回路、文書、CAD ファイルなどの資料を wiki 形式で共有しており、電子機器制御のためのオープンソースソフトウェアも公開していた。
    UCSB がまた一つノーベル賞を得ることになって誇らしい。

    • UCSB 物理学科を応援したい。
  • Martinis が受賞したノーベル賞関連の研究の大半は NIST(米国標準技術研究所、商務省所属)で行われたという点にも触れておくべきだ。

  • こうした量子現象や巨視的な量子効果がなぜ重要で興味深いのかを理解したいなら、Anil Ananthaswany の “Through Two Doors at Once” を勧めたい。

    • これは二重スリット実験(double slit experiment)を扱った本なのだろうか。
  • University of California, Berkeley と University of Cambridge が引き続き優れたノーベル賞受賞者の同窓生リストを伸ばしているのを見るのは素晴らしい。
    Paris-Sud University は初めて聞いたが、これでその大学出身として4人目のノーベル賞受賞者が生まれることになる。

    • フランスの高等教育システムは米国とはまったく異なる。
      教育機関と研究機関が分離している場合も多く、多くの研究や学位が複数の大学・研究機関の合同で成り立っている。
      たとえば一つの研究室を5つの学校と3つの国立研究所が共同運営していたり、学生が複数機関の共同学位プログラムを通じて別々の学校名義の学位を同時に取得したりする。
      そのため外部からは全体の構造を理解しにくい。
  • 文系っぽい質問なのだが、
    「壁に投げたボールは必ず跳ね返ってくるのに、ミクロの世界の粒子は障害物をそのまま突き抜けて反対側に現れることがある。これをトンネル効果という」
    これは実際に粒子が壁にぶつからず微細な空間を通って抜けるという意味なのか、それとももっと不思議なことが起きているのか気になる。

    • まったく愚かな質問ではない。
      古典的には、粒子が壁をうまくよけて通り抜ける様子を想像することもできる。
      しかし量子力学におけるトンネル効果はそれとはまったく別の概念だ。
      ここでいう「壁」は実際の物体というよりエネルギー障壁を意味する。
      古典的には粒子にその障壁を越えるエネルギーがなければ絶対に通過できないが、量子力学では粒子は波動性を持ち、波動関数の振幅は障壁を越えるにつれて減衰するものの 0 にはならない。
      その結果、障壁の反対側にも粒子が存在する確率がごく小さいながら残り、実際に測定すると反対側で見つかることがある。
      今回のノーベル賞授与の背景にある実験のすごさは、電子のような単一粒子ではなく、巨視的な波動関数を共有する多数の粒子が同時にトンネルしたことを測定した点にある。
      それらは波動関数が障壁をまたいでつながった「コヒーレント状態」にあり、その結果、障壁の反対側にも有意な確率振幅が残って観測自体が可能になった。

    • もっと不思議な現象だと言ってよい。
      一つの粒子が低エネルギー状態 A にいて、途中の高エネルギー状態 B を経て、再び低エネルギー状態 C へ移る必要がある状況を考えるとよい。
      古典的には外部からエネルギーが供給されなければ A から C へ行けないが、実際には粒子がエネルギーなしに C へ瞬間移動したかのように移る現象が観測される。
      このとき粒子が本当に B を通ったのかという疑問が残る(実際には B を通っていないように見える、と理解してよい)。

    • この現象を単純化した版は「ポテンシャル障壁」という概念に近い。
      ボールが丘(エネルギー障壁)の前で十分な速度がなければ越えられないように、古典力学では粒子が障壁を越えるには十分なエネルギーが必要だ。
      しかし量子では、エネルギーが足りなくても波動関数が障壁の中で指数関数的に減衰しつつも完全には 0 にならず、その結果、反対側で粒子が見つかる確率が存在する。

    • 量子力学では「ボール」(あるいは理想化された粒子)には波動関数が伴う。
      これを計算すると、壁の向こう側にも粒子が存在する確率が 0 ではない値として残る。
      さらに深い説明もあるのかもしれないが、私の理解ではこういうことだと共有しておきたい。

    • ここでいう「単一粒子」は、私たちが知っている古典的なボールのような粒子ではなく、状況に応じて波でもあり粒子でもある「量子オブジェクト」だ。
      確かに神秘的な概念だ。

  • 今朝 New York Times の記事も読んだが満足できなかった。
    そこで HN に来てもっと良い情報を探したところ、実際により良い記事と説明が見つかって満足した。
    ここで紹介されている記事は高校生向けレベルだが、引退した物理学博士の立場から見ても実験と理論をよく理解できた。

  • 毎年ノーベル物理学賞でどんな革新的発見が注目されるのか、いつも楽しみにしている。
    これからも最新の発展について学べると思うととてもわくわくする。