- コンピュータ工学を専攻し、インターンシップやプロジェクトを経験した新卒者が、標準的なルートを歩んだにもかかわらず就職に失敗する現実
- 現在の求職市場は**「ホワイトカラー不況」と「新卒就職難」**と呼ばれ、とりわけコンピュータ工学専攻者の失業率が高まっている状況
- **自動化・ロボット・遠隔労働(teleoperation)**が結びつき、企業が人材採用そのものを最小化する構造へ移行
- AIモデルとロボットが人間の反復業務を代替することで、「普通の」職務が消え、「分布外の人間(out-of-distribution human)」、すなわちデータで代替されない創造的・非定型の労働だけが残る様相
- 20世紀の産業社会が労働を人生の中心に据えていたのとは異なり、21世紀の経済は人間労働をそれほど必要としない体系へ転換中
新卒者の求職の現実
- 筆者は大学卒業後、インターンシップ3回、コンサルティング経験、優秀な成績など、典型的な成功ルートを歩んだにもかかわらず失業状態にある
- かつては同じ経歴で安定した職を得られたが、現在は**「壊れた市場」**と呼ばれるほど機会が乏しい
- 公式の失業率は依然として低く保たれているが、現場で感じる機会の密度は劇的に低下
- 求人公告は存在するものの、実際の採用件数に対する応募者数が爆発的に増え、「もっとたくさん応募しろ」という助言は意味を失っている
- 金利上昇、資本縮小といったマクロ要因に加え、ソフトウェア・ロボット・海外労働の結合が新規採用を減らす構造変化として作用
自動化予測と現実の乖離
- 10年前の研究は米国の仕事の半分が自動化高リスク群だと予測したが、OECDの作業単位での再分析では、高リスク比率ははるかに小さい水準へと縮小
- 自動化は崖のような断絶ではなく緩やかな圧力として作用し、高リスク職種でも雇用が完全に消えるのではなく、よりゆっくり成長する
- 米国での産業用ロボット導入はすでに相当な雇用減少と賃金低下をもたらしており、日常的で規則化しやすい作業ほど打撃が大きい
- 新卒者の立場では、統計的な漸進性ではなく参入経路が狭まっていく実感を経験し、過去のデータやプロセス記録全体と競争しているように感じられる
Amazonの事例:ロボットと人員削減
- Amazonの内部文書とアナリスト報告は、今後10年間で倉庫作業のかなりの部分をロボットで代替し、巨額のコスト削減を計画していることを示す
- 会社はロボットが人間を支援すると主張するが、ロボット台数は急増している一方で、自動化されたセンターの総雇用は横ばいか減少
- かつて倉庫のような物理的オペレーションでは一定数の人員が必須要素と見なされていたが、現在では**「どれだけ少ない人員で運営できるか」**が事業モデルの出発点になっている
遠隔操作と「見えない労働」
- Teleoperation(遠隔操作)は自動化のもう一つの形態であり、実際には低賃金国の労働者が遠隔でロボットを操作する構造
- フィリピン・マニラのオフィスで働く労働者がVRヘッドセットを装着し、日本のコンビニの在庫ロボットを遠隔操作
- ある国の労働者が別の国のフォークリフトを複数画面とハンドルで操作し、半自律ソフトウェアが混乱したときだけ介入
- これは移民なき移民構造であり、豊かな国は住宅・学校・文化統合なしに、マニラ水準の賃金で東京水準の労働を獲得する
- 労働者は依然として人間だが、地理的にはネットワークの一部のように扱われ、コールセンターからマイクロタスク・プラットフォームへと続くはしごの一段階となっている
テレオペレーションの隠れた目的:データ収集
- 多くの遠隔操作の仕事は、単に作業を完了することではなく、将来の無人自動化のためのデータ収集を目的としている
- 家庭用ロボットNeoは「エキスパートモード」で遠隔操作者がドアを開ける、物をつかむなどを行い、それを制御モデル訓練用データとして活用
- Tesla Optimusでも作業者がリグを装着してカップをつかむ、テーブルを拭くといった動作を繰り返し、ロボットが模倣するサンプルを生成
- 自動運転車や大規模言語モデルにおけるデータ作業と似ており、物理世界に実装されたゴーストワークに相当する
ホワイトカラー不況と初級職の消滅
- ここ数年で技術、金融、コンサルティングなどのホワイトカラー初級職が急激に減少し、コンピュータサイエンス卒業生を吸収していた分野が縮小
- かつて最も安全な学位と見なされていたコンピュータサイエンスが、今では最悪の雇用成果を示す専攻の一つとして現れている
- 初級採用の求人掲示板はジュニア開発者職よりも中堅・シニア職に偏り、企業は新卒採用を控えて経験者+AIツールの組み合わせを好む
- 雇用主はメディアに対し、ジュニア採用を保留し、自動化でジュニアが担っていた業務を置き換えていると公然と述べている
人間とソフトウェアのスケーラビリティの違い
- 人間は限定的な水平スケールしかできないが、ソフトウェアは強力なモデル1つを無限に複製してエージェント群を構成できる
- 最近のエージェント論文やデモでは、同じモデルの複数コピーが議論・交渉・計画・実行する小さな社会が構築されている
- 管理職はすでに、人員増加を要請する際にAIシステムで代替不可能な理由を示すよう求めている
- ShopifyのCEOはチームに対し、人員追加の前にまずAIを試すよう指示しており、一部企業は「AIファースト」を掲げて人員プールを縮小している
「分布外の人間(out-of-distribution human)」という概念
- ほとんどの業務はデータで学習可能な反復的課題で構成されている
- 釣鐘型曲線の中央部に存在し、作業は小さな変形を伴いながら繰り返される
- モデルはこの中央部をうまく学習し、**過去データ(ログ、メール、記録、コードリポジトリ)**から容易に模倣できる
- モデルが学習できない非定型・創造的な業務だけが自動化曲線の後方に残る
- 分布外の人間とは、業務が曲線の裾の部分に位置し、現在の訓練データでは圧縮できない人を意味する
- 本当に新しい問題を扱う、センサーが不十分な小規模で物理的な環境で働く、あるいはクリックログに還元できない嗜好を持つ場合など
- 筆者は**「正規分布の中心」を目指してキャリアを築いてきた**が、その中心が急速に消えつつある
- 大半の誠実な新卒者は中央部への参入を試みるが、そこは歴史的に合理的で尊重される労働市場の中心だった
- 3回のインターンシップと小規模なコンサル経験は普通の仕事を狙うための標準的な経歴だったが、現在は中心部が空洞化している
- 雇用主は依然としてスキルと努力を語るが、実際の問いは**「あなたの貢献は、エージェントと低賃金労働者を組み合わせても再現できないほど独自か」**というもの
- 採用されたとしても日常業務は本質的にラベリング作業であり、未来の自分の代替者を訓練するためのデータ生成になりうる
- 現在の雇用構造では**「普通であること」自体が危険であり、人間が行う仕事でさえ未来のモデル学習用データの生産**へと転落している
政治・社会的対応の遅れ
- 20世紀の工業国家は労働を人生の中心的価値として据え、政治・宗教・経済のすべてがそれを前提としていた
- しかし今日では労働需要そのものが減少しているにもかかわらず、制度はいまだに「すべての人に仕事を提供する」という目標を維持している
- 例:実効性の低い雇用補助プログラム、象徴的な「ゾンビ職」の維持
労働組合の役割とジレンマ
- 労働組合は一部のケースで、自動化を遅らせることで賃金と交渉力を市場より長く維持している
- 欧州の地下鉄路線では、無人運転路線が同じ都市に存在し技術的にも実証済みであるにもかかわらず、運転士付きで運行している
- 港湾労働者は自動クレーンと遠隔制御を制限する条項を契約に明記することに成功した
- 企業は雇用全体としては問題ないと繰り返し、労組と政治家は技術的に不要な仕事であっても維持すべきだと主張する
- どの陣営も、労働そのものが中心的物語として縮小していく意味を明確に表現できず、残る仕事の位置と担当者だけを争っている
自動化先進国の現実:韓国、中国、日本
- 国際ロボット連盟(IFR)の統計によれば、韓国、シンガポール、日本、ドイツは長年にわたり産業用ロボットを工場へ集中的に投入してきた
- 中国は出遅れて始まったが、世界の産業用ロボット設置の半分以上を占め、製造業ロボット密度ではドイツを追い抜いた
- 同時に中国の1人当たりGDPは米国の約3分の1水準であり、若年失業率は10%台半ばから高位を記録している(非公式推定はさらに高い)
- 中国の若年失業率は二桁台で、「寝そべり(lying flat)」文化が広がっている
- 自動化に巨額の資金と政策を注ぎ込んできたにもかかわらず、**卒業生たちは低賃金サービス職やオンライン副業で「腐っていく」**とSNS上で不満を漏らしている
ギグエコノミーとロボタクシーの先行不安
- ロボタクシーはまだ総走行マイルのごくわずかな比率しか占めておらず、Waymoも運営都市でごく一部の乗車しか処理していない
- しかしサンフランシスコやフェニックスの配車ドライバーたちは、ロボタクシー運行市場ですでに収入減少を経験している
- 銀行は都市部の配車プラットフォームが**「自動運転車リスク」**に直面しているという警告を出している
- 実際のシェアは低いにもかかわらず、技術による仕事消失そのものよりも、仕事消失の物語が先に到来するというパターンを示している
個人的な展望と警告
- 20年後にどれほどの仕事が存在するのか、自分の仕事が分布の裾に十分位置づけられるのかは分からない
- さまざまな仕事に挑戦し、中心部だけにとどまらず、分布外の人間になろうと努めるつもりだ
- 人生設計全体が標準的な会社で標準的な仕事をする、尊重される中心事例の労働者であることに依存しているなら、そのカテゴリーを侵食する努力がどれほど集中的に進められているかを直視しなければならない
- みながフルタイムで働き、そこで尊厳を見いだすという前提に立つ政治も再検討が必要だ
- 20世紀は経済が人々を毎日必要としていたため、労働を称揚することに知的・道徳的努力を注いだが、21世紀はそれほど多くの人を必要としない機械とシステムを構築している
結論:労働の中心性の弱体化
- 技術的説明では自動化は漸進的で相殺的だとされるが、体感としての現実は中心的な仕事の消滅である
- 未来の労働市場の核心的な問いは、**「モデルが学習できない人間の領域はどこまでか」**という点にある
- 21世紀の経済はより少ない人間しか必要としないシステムへ移行しつつあり、
労働を人生の中心に置いていた20世紀の価値体系が根本から揺らいでいる
3件のコメント
少し前に上がっていたこの記事と、Hacker News のコメントを一緒に読むとよさそうですね https://ja.news.hada.io/topic?id=24260
Hacker Newsの意見
この記事を読んで、2つのことを思った。
第一に、この著者は本当に 卓越した文章力 を持っている。「経済の過去と競争する」「労働を神聖視していた世界の残存行動」「移民なき移民」のような表現は文学的だ。
第二に、履歴書のデザインはいまひとつだ。まるでエッセイのように長く、要点がない。今は TikTokとInstagram Reelsの時代 なのだから、テキストを70%減らして核心だけを見せるべきだ
ただ、この人には確かに本を書けるだけの文章の才能がある。もしかすると、こうした人材がビッグテックや金融ではなく 創造的な道 に進むほうが、社会にとっては良いのかもしれない
参考までに、彼の履歴書は ここで見られる
文章が素晴らしくて印象に残った。自分が採用中なら面接を検討したと思う。
Ahmedはイギリスにいて、アメリカのH1Bビザ問題は当てはまらない。ただし、イギリス国内の 移民増加 によって高度職の競争が激しくなっている可能性はある。
DeepMindインターンなどAI中心の経歴は皮肉にも、自分が作った技術が 自分の仕事を自動化 する状況を招いたとも言える。
また、現在のイギリス経済が停滞していることも、彼が仕事を見つけにくい理由の1つだろう
本人です。数日前、挫折感 の中で書いた文章がこんなに注目されるとは思わなかった。
ML、プロダクト、リサーチの交差点にある役割を探している。ユーザーとプロダクトに近いビルダー型PMの役割 を好んでいる。
関連分野で働いている方がいれば話してみたい。読んでくれて、フィードバックをくれた皆さんに感謝する
自分は最近までイギリスで採用担当をしていた。こういう CVスタイル は何度も見てきたし、250人以上が応募するジュニアポジションではすぐにふるい落とされていただろう。
検討基準は、(a) イギリス国内の学位とビザの明記があるか、(b) 専攻の適合性、(c) 大学の知名度、の順だった。
DeepMindインターンも大学内のインターンで、特別ではない。
現実的には、ブリストル・バーミンガム・UCL のような大学出身で大企業インターン経験のある応募者だけでも、すでに飽和状態だった
警告しておくと、少し 怒りの混じった文章 だ。
新卒世代が業界によって 搾取され、捨てられた世代 になってしまったのが悲しい。
AIツールのおかげで新卒でもすぐに生産性を出せるのに、企業はむしろ 解雇とリストラ にばかり熱中している。
経営陣は人を資産ではなくコストとして見ており、ソフトウェアを工場のように扱っている。
その結果、ほとんどの製品は ユーザーに不親切なゴミ になってしまった。
自分は人のためのソフトウェアを作りたい。だが今の就職市場は 椅子取りゲーム のように感じられる
上層の人々にとって、労働市場は単なる 統計数値 にすぎない。共感能力が乏しく、問題を解決しようという意志もない。
技術革新は、本来なら皆がより少なく働き、より多くを得る社会を作れたはずなのに、現実には 意味のない仕事と富の集中 ばかりが増えている
今CS専攻者が直面している 就職難 は本当に気の毒だ。
90年代には、プログラマーはそれほど良い職業ではないと言われていたが、その後に黄金期が来た。
今回もそういう 循環サイクル なのか、それともまったく違う時代なのか気になる
理解しがたいのは、こんなに新卒が仕事を見つけられないのに H1Bビザ人材 は入り続けていることだ
求職が難しいという点には共感する。
ただし、自動化の限界 を理解することも重要だ。たとえばイギリスのOcadoは自動化された物流システムを持っていたが、パンデミック時には拡張性が足りず、新規顧客を受け入れられなかった。
一方、従来型のスーパーは人を雇って素早く対応した。
結局、効率性と柔軟性のバランス が重要だ
問題は、効率性は数字で測れるが、柔軟性はそうではないという点だ
著者の言う「out of distribution」戦略について考えてみた。
能力を特異なものにすると、仕事も特異なものになる。つまり、機会が減り、地域的制約が強くなる。
自分も博士課程で世界に10研究室しかないテーマを扱っていたが、そのぶん仕事も希少だった。
結局、革新的な研究とは本質的に 自分の仕事をなくすこと でもある。
自動化で節約されたコストが必ずしも高度人材に戻るわけではなく、たいていは 利益として吸収 される可能性が高い
効率性は数字で測定されるが、柔軟性はそうではない -> この一文が印象的ですね。