製品の時代は終わり、頭脳の時代が来る
(mrmarket.bearblog.dev)- ソフトウェアの限界生産コストが0に収束するにつれ、購買動機そのものが変化中であり、自分で作れないからではなく、作る時間や保守する意思がないから購入する時代に入っている
- ツール選定の基準は機能ではなく、ソフトウェアを運用する人々の判断力へと移っている
- 規制産業の大企業はROIよりも責任・信頼・将来予測力を基準にベンダーを評価しており、まもなく小規模企業も同じ問いを投げかけるようになる見通し
- 21世紀の新たな生産要素は**大規模な意思決定の質(decision quality at scale)**であり、実行コストは下がったが最善の判断のコストは下がっていない
- 創業者は製品ではなく、思考様式・予測力・判断プロセスを公に証明するコンテンツで競争すべき
ソフトウェアの価格と購買動機の変化
- 本来は無料であるべきものが高くなる事例(ミネラルウォーター、洗浄済みレタス、納税申告代行など)のように、ソフトウェアもまもなくこのカテゴリに入る可能性がある
- ソフトウェアの限界生産コストが0に近づき、カテゴリごとのツール数が爆発的に増えても、価格が死のスパイラルに陥るわけではない
- 購買動機は「自分では作れないから」から、**「作りたくない、あるいは立ち上げて維持する時間がないから」**へと移っている
- ツール選定の中核となる基準はただ1つ、ソフトウェアを運用する人々の判断力
エンタープライズにおける責任(Liability)の問題
- 規制産業の大企業は、ソフトウェアが完全にコモディティ化・民主化されても、社内ツールを自作しようとはしない
- ツール評価ではROIよりも次の問いを重視する
- 誰が自分を大きな窮地に陥れないか
- 誰になら組織の未来の一部を託せるか(たとえばCRMなら、顧客データを安全に扱い、営業担当者が困る事態や取りこぼしが起きないようにできるところ)
- 誰が十分な先見性をもって運用し、システムを再び剥がして再評価・再教育する長く苦しいプロセスを繰り返さずに済ませてくれるか
- まもなく小規模企業も同じ問いをするようになり、これは機関投資家がファンドマネージャーを評価する方法に似ている
- ファンド戦略は複製可能だが、アルファ(alpha)は複製不可能
- 過去のリターンは将来のリターンを予測するうえで乏しい指標であり、意思決定プロセスと知的厳密性のほうがよりよい予測指標である
- 最高のファンドがトラックレコードではなく哲学と思考モデルを打ち出す理由であり、ソフトウェア企業も同じ方向を取るべき
代替不可能な資産としての意思決定の質
- 古典経済学における三大生産要素は土地・労働・資本であり、20世紀には技術(全要素生産性)が加わった
- 21世紀の新たな生産要素は、まだ過小評価されている大規模な意思決定の質(decision quality at scale)
- コスト構造の非対称性
- 意思決定を実行するコストは、自動化・ソフトウェア・AIによって急速に低下している
- 何を実行すべきかについての最善の判断のコストはまったく下がっていない
- 意思決定の質は、複雑で不確実な状況に対する理解の明瞭さに制約され、この能力はうまくスケールしない
- 真の不確実性・新規性・不完全情報の前での判断は自動化できず、未来はまさにそうした条件の連続になる
- 過去データだけでもそこそこの意思決定は可能だが、最善の意思決定は不可能
綱引きの比喩 — 同じ条件、異なる結果
- 同じCRM・データウェアハウス・LLM APIを使い、同じ市場条件で同じ顧客を追う2社を想定する
- 結果を分けるのは無数の小さな意思決定の累積された質
- 今四半期はエンタープライズとミッドマーケットのどちらを優先するか
- プロダクトロードマップの順序をどう決めるか
- いつ、どの新しいチャネルに投資するか
- 各決定にはあり得る答えの分布があり、最善の答えは事前には不確実である
- よりよい世界モデル、不確実性に対する知的誠実さ、よりよいデータに基づいて更新する意思を持つチームが、時間とともに圧倒していく
- 綱引きと同じで、力は強いが愚かな人も、弱いが賢い人も、どちらも次善策であり、必要なのは強くて賢い引き手
Warren Buffett式アプローチ — 創業者コンテンツ
- 「Thought leadership」という用語は意味が希薄化しており、捨てるべき対象である
- 劣化した形は、LinkedInの雑談やコンテンツマーケターが量産するAIスロップなブログ記事
- 本当に必要なのは、Warren Buffettの株主書簡、Charlie MungerのPoor Charlie's Almanacのような創業者コンテンツ
- 効果的な創業者コンテンツが公に証明すべきこと
- そのドメインで中央値より優れた予測と意思決定を、競合より安く、より高頻度で行ってきたトラックレコード
- 独自無二の専門性
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コンテンツが備えるべき4つの要素
- 予測の質(Prediction quality): 公開された堅牢な予測。的中する必要はないが、型破りでありながら合理的であるべきで、外れたときには目に見える形で更新し、具体的で自信ある予測を出し、ヘッジは最小限にする
- 意思決定の透明性(Decision transparency): 結論だけでなく推論も説明する。重要なのは正しさではなく明瞭な推論であり、買い手が思考様式を評価できなければならない
- 認識論的誠実さ(Epistemic honesty): 不確実性を認め、大胆な主張と知識の限界の認知を両立させる。過信はむしろ不安要因になる
- スピードと経済性(Speed and economy): より速く、より安く良い判断を下すチームが先行者となって競争優位を確保する
- 形式はブログ、講演、ハンドブック、書籍、株主書簡、ドキュメンタリーなど何でもよく、上の要素を満たすことが核心
創業者へ — 今すぐやるべきこと
- 製品を前面に出さないこと: 機能の同等性が高まるほど製品は意思決定要因として弱まり、製品と哲学を同等に置くか、あるいはブランド優先、製品後順位で配置する
- サイトデザイン、創業者コンテンツ、製品設計原則など、さまざまな方法が活用可能
- 検証可能で具体的な主張の公開トラックレコードを構築する: 市場の方向性、判断とその理由、外れた事例などを記録する
- 当たればエッジの証拠、外れても認識論的誠実さの証拠になる
- 正しく外れるというあり方も存在し、楽観と悲観の位置を示すシグナルになる
- チームを可視化する: 一緒に綱を引く人々、とりわけリードエンジニアとプロダクト担当者が誰かは、見識ある買い手にとって重要
- 自社ロードマップ予測の質で競争する: 「やると言ったこと」と「実際に作ったこと」の履歴を公開する
- 長い調達サイクルとAIの進化速度を理解する買い手は、この項目を重要に評価する
- **歴史的意思決定の台帳(ledger)**という形もあり得る
- ギミックや過度なユーモアは避けること: エンタープライズ営業では安全な路線
- ギミックは一瞬面白くても、間違った顧客を引き寄せ、アラインメントを崩す。定義上、知的に不誠実である
- Rampの事例を例外として認めつつも、Kevin from The Officeのような活動は低周波の注意散漫要因であり、時間とともにしぼむ可能性が高い
- 派手さはアイデアを覆い隠し、Amazonが文書中心の会議を守る理由と同じ文脈にある
- 静かでも正しい人になるべきであり、騒がしくおしゃべりだが間違っている人になってはならない
- ユーモアは真正性の一形態として有用だが、最小公分母ミームはB2Cや大衆向けでない限り、長期的には不利
価値移動と業界の未来
- 市場の歴史は、コモディティ化にともなう価値移動の歴史であり、ことさらに大事件ではない
- 「テック業界は死につつある」という見方は森を見ていない。本質的な競争は価値伝達の効率性(最小の時間と買い手の労力で最大の価値を届けること)にある
- build vs buyがbuy側に完全に傾いても問題はなく、家事代行を雇う市場のように正常な形である
- 価値移動の流れはハードウェア → オペレーティングシステム → ミドルウェア → アプリケーションレイヤーと続き、いまや価値はアプリケーションの上でそれを生産的にする思考と判断の質へ移っている
- AIがほぼすべてを行うとしても、LLMが主要なAIベースOSとして機能する限り、human in the loopは近い将来必要である
- ビジネスが買い手に対して最優先で答えるべき問いは、「チームにはどれほど強く戦略的な人材がいて、彼らはどう協働しているのか」
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