VCの型を破る
(99tech.alexlazarow.com)- Fluent VCの創業者であるAlex Lazarowが、成功するフィンテック投資に関する10の逆張り戦略を共有
1. スタートアップの堀(Moat)とTAMの方程式
- 一般にスタートアップでは、競争優位を維持するために強力な堀(Moat)が重要だと考えられている
- しかし金融サービスは米国GDPの約20%を占める巨大市場であり、時間の経過とともにほとんどの製品差別化は弱まる傾向がある
- 代表的なフィンテック成功事例は、以下のような要因で市場を掌握した
- 優れた製品: StripeのシンプルなAPI
- より良い価値提案: Chime(無料の銀行口座)
- 独自の市場参入アプローチ: GuidelineとGustoのパートナーシップ
- 過小評価されていた大規模顧客層の攻略: Nubank
- 金融サービス市場のTAM(Total Addressable Market)は非常に大きいため、製品差別化と販売スピードのほうが堀より重要な場合がある
- 例
- Robinhood: サービス自体は差別化されていなかったが、大規模ビジネスを構築
- Ramp: 支出管理分野では後発だったが、迅速な製品投入で成長
- 既存企業(Incumbents)や競合スタートアップはいずれ成功モデルを模倣するが、成長と製品改善のスピードが速ければ、コピーされるリスクを減らせる
- フィンテックでは、規模の経済を通じて堀を形成できる可能性もある
2. 規制産業では規制当局に対して積極的であること
- フィンテックは結局のところ**「金融(Fin)」が先**であり、規制当局との透明でオープンな協力が不可欠
- 規制当局と協力する意思のない企業には懐疑的
- これは筆者が過去10年間、クリプト分野に投資してこなかった理由のひとつでもある
- 単に法令を順守するだけでなく、法の趣旨や顧客保護の理由を尊重する創業者を好む
- 規制当局と積極的に対話し協力する姿勢を持つ創業者のほうが、成功例が多い
- これはフィンテックに限らず、あらゆる規制産業に当てはまる原則である
3. 若さが必ずしも優れているわけではない
- かつてはパーカーを着た20代の創業者がスタートアップの典型的なイメージだったが、今では長年の業界経験を持つ創業者が存在感を示している
- もちろんStripeやMetaのような若い創業者の成功例もあるが、経験豊富な創業者がドメイン知識を武器に成功するケースが多い
- これは規制当局との協力姿勢ともつながっている
- 特定の問題を解決するうえで、その創業者がなぜ独自の能力を持っているのかを理解することが重要
- 結果として、より深いドメイン専門性を持つ経験豊富な創業者に投資する傾向がある
4. 地理的な立地を強みに活用する
- シリコンバレー外や世界各地で、成功するスタートアップ(“Fund Returners”)が増えているという研究結果がある
- グローバルスタートアップが持つ構造的な利点
- コストが低く、同じ投資額でより多くの成果を出せる → ビジネスリスクの低減
- 競争がそれほど激しくないため、より大きな成功可能性がある
- ただし、市場規模が小さい、あるいはベンチャーキャピタルへのアクセスが不足する可能性があるという欠点もある
- 実際に、世界最大級のフィンテック企業はシリコンバレー外から登場している
- Nubank(ブラジル): 世界最大のネオバンク
- Ofbusiness(インド): 最大のエンベデッドフィンテック・マーケットプレイス
- Klarna(スウェーデン): 世界最大級のBNPL(Buy Now, Pay Later)企業
5. ユニットエコノミクスの重要性
- 高成長は魅力的に見えるかもしれないが、持続不可能なユニットエコノミクスに基づいているなら意味がない
- 筆者は**「ユニコーン(Unicorn)よりラクダ(Camel)を好む」**
- つまり、バブルではなく堅固な事業モデルを持つスタートアップのほうが重要だということだ
- 創業者に会う際、まず現在のユニットエコノミクスをどれだけ理解しているかを確認する
- 単なるアイデアではなく、実際のビジネスモデルとして検証された要素があるか?
- キャッシュフローのタイミングをどう管理するか?(次のセクションで追加議論)
- 初期段階では完璧である必要はないが、主要指標をどれだけ把握しているかが重要
- フィンテックは規模の経済(Scale Game)の効果が大きい業界
- 決済企業やネオバンクは、規模が大きくなるほどより有利なパートナーシップ条件を確保できる
- 初期のユニットエコノミクスが一定水準を超えていれば、成長とともにさらに改善する可能性が高い
- 一方で、他業界では成長するほどユニットエコノミクスが悪化する場合もある
- 初期のユニットエコノミクスは事業の中核的な土台なので、必ず検討すべきである
6. キャッシュサイクル(Cash Cycle)の重要性
- 良いスタートアップは強いユニットエコノミクスを備えているべきだが、優れたスタートアップは**「ネガティブ・キャッシュサイクル(negative cash cycle)」**も確保しているべきだ
- ネガティブ・キャッシュサイクルとは?
- 顧客から先に現金を受け取る一方で、支払い義務は後から発生する構造
- これにより、外部投資なしで運転資金を自前で調達できる
- 例: 融資スタートアップ
- 融資会社が貸付原資を100%調達できるなら、追加資金調達なしで運営可能
- 一方、80%しか調達できなければ、不足する20%を追加で調達しなければならない → 継続的な資金調達が必要
- 成長が速いほど追加資金調達の負担が重くなるという、逆説的な成長負担が生じる
- 他のフィンテック分野でも同様の原理が適用される
- Insurtech(保険テック): 保険契約のために一定資金を事前保有する必要がある場合がある
- 決済およびネオバンク: 準備金(Reserve balance)の確保が必要
- キャッシュサイクル最適化の事例: Nubank
- Nubankは顧客から先に現金を受け取り、加盟店への支払い時点を遅らせた
- これによりキャッシュフローを調整し、追加資金調達なしで急成長できた
- キャッシュサイクルを最適化すれば、平凡なスタートアップを優れたスタートアップに変えられる
7. スタートアップは初期段階でも財務モデルが必要
- 初期スタートアップの財務モデルは完璧である必要はないが、必須である
- スタートアップはまだ明確なビジネスモデルがない状態で始まるものであり、Pre-seed段階では不確実性が大きい
- Series A以降になって初めて本格的にビジネスモデルが定まることも多い
- ユニットエコノミクスや販売チャネルの深さなどは、初期には単純な推定値にとどまるほかない
- 一部の創業者やVCは、シード段階では財務モデルは不要だと主張する
- しかし特にフィンテックのような複雑な金融仲介モデルを扱うスタートアップでは、財務モデルは必須
- 例:
- 融資スタートアップ: 先に資金を貸し出し、一部損失を被り、資本コストを支払いながら収益を上げる
- 保険スタートアップ: 先に保険料を受け取り、その後リスク支払いを行いながら契約を管理する
- 完璧な数字ではなく、創業者の財務的な思考力を評価することが重要
- 創業者が**コスト構造、粗利益率(Gross Margin)、キャッシュバーン(Cash Burn)**などをどれだけ深く理解しているかを確認する
- さまざまなシナリオに対してどれだけ精緻な視点を持っているかを評価する
- VCの立場からすると、創業者が自分のドメインとビジネスモデルをどれだけ理解しているかを見極める中核的な方法が、まさに財務モデルである
8. VCは独自の財務モデルを作るべきではない
- 初期スタートアップはビジネスモデルも前提条件も不確実なため、完璧な財務モデルを作ることは不可能
- VCが独自に新しい財務モデルを作ることは、むしろ誤りを増幅させる結果を招く
- 後期段階(レイターステージ投資)では前提がより明確になり、シナリオ分析の価値も高まる
- しかし初期段階では、事業に最も近いのは創業者であり、VCより優れたモデルを作れる可能性が高い
- VCはシード段階では創業者のモデルを活用するのが原則
- 独自に新モデルを作るのではなく、**創業者のモデルをもとに感度分析(Sensitivity Analysis)**を行う
- ユニットエコノミクスの前提、希薄化(Dilution)、Exit Multipleなどが投資収益に与える影響を深く分析する
- VCは創業者のモデルを基盤に投資判断すべきであり、独自モデルを作る必要はない
9. ビジネスモデルの深さが重要であり、バズワードに振り回されないこと
- ここ数年、Crypto、NFT、AIなどバズワード中心のスタートアップが登場してきたが、どの技術トレンドも万能の解決策にはなりえない
- 初期段階では誇張された期待がつきものだ
- 金融サービス市場は巨大だが、依然として既存大企業(Incumbents)が支配している
- 新しいフィンテックトレンドが登場しても、既存の金融業界を完全に制圧できないことは多い
- 創業者がすべてを新しく革新する必要はない
- 既存大企業と協力したり、データを活用した新しい流通戦略を築いたりするほうが、より効果的な場合もある
- VCは現在のホットトレンドに流されるのではなく、長期的に持続する変化を生み出す可能性があるビジネスモデルに集中すべきだ
- 成功するベンチャー投資家には、大勢に逆らう逆張り(Contrarian)的なアプローチが必要
- 単なる**「流行テーマ」**に合わせた事業ではなく、既存産業の中で実質的な変化を生み出せるモデルかどうかを評価すべきである
10. 顧客中心主義(Customer-Centric Approach)
- すべてのVCは顧客中心の思考を持つべきであり、フィンテックではなおさら重要
- 規制当局がどの事業を止める可能性があるかを考えるとき、次の問いが役に立つ
- 「このサービスは本当に顧客にとって良いものか?」
- 「顧客を成熟した大人として扱っているか?(透明性、開放性、敬意を備えたサービスか?)」
- 中核原則: 顧客にとって本質的に良いサービスを提供する会社は持続可能である
- 低コストでより良いサービスを提供する、あるいは
- より高い透明性と信頼性を基盤に運営する企業は、市場で成功する可能性が高い
- 金融サービスは顧客の離脱が起きにくい(Sticky)業界
- 顧客が既存サービスを捨てて新しいサービスへ切り替えるかを考える際、必ず自問すべきだ
- 「この製品は本当に既存サービスよりはるかに優れているか?」
- 「自分自身が実際に使いたいと思うか?」
- 「自分の配偶者や両親も喜んで使うサービスか?」
- これらの問いに自信を持って**「はい」**と答えられないなら、顧客を説得するのは難しいという意味である
- 顧客が既存サービスを捨てて新しいサービスへ切り替えるかを考える際、必ず自問すべきだ
- 結論: 顧客の視点から事業を評価することが最も重要であり、顧客の声が最優先であるべきだ
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