新しい市場を学ぶには、まず製品を作れ — TwitterのPMからヘルスケア起業家への転身で得た戦術
(review.firstround.com)- ソフトウェア出身の起業家が、製品構築を学習手段として使い、なじみのないヘルスケア市場を切り開いた事例。自ら試し、反復的にピボットしながら、DTC遺伝子検査からバーチャルがんクリニックへ拡張した道のりを紹介
- 部外者が陥りやすい失敗パターンとして、初期仮説への執着、傲慢な態度、投資や人脈由来の初期売上に惑わされる偽陽性の錯覚に注意すべき
- 市場を学ぶ核心は、インセンティブと意思決定の流れを解剖することにあり、誰が影響・決定・価格・条件を左右し、どのように支払いが行われるのか、取引の各段階を最後までマッピングすることを勧めている
- 著名人よりも現場の実行者をアドバイザーやチームとして迎え、臨床・科学的なrigorをMVPの境界線の基準に据えて、信頼と製品品質を確保する戦術を共有
- 意味のあるCOGSがあるビジネスなら、ユニットエコノミクスをゼロから算出して価格を逆算し、低価格戦略の限界に気づいた場合は、ソリューション中心へウェッジを再定義して、既存プレイヤーの購買構造を回避すべき
- Colorの共同創業者兼CEOであるオスマン・ララキは、経験がまったくなかったヘルスケア業界で10億ドル規模の会社を成長させた
- ヘルスケアを学ぶために用いた中核的な方法は、製品を自分で作るプロセスだった
- ララキとエラド・ギルは一緒にColorを創業
- Color: がん治療の全過程を支援するバーチャルクリニック
- 2人とも元GoogleのPM出身で、Mixer Labsを創業後にTwitterへ売却
- TwitterでVPを務めていたとき、屋上でギルが自分の全ゲノム入りハードドライブを見せたことから会話が始まった
- 当時オンラインで出回っていた図は、遺伝子検査コストがムーアの法則より速く下落していることを示していた
- 4,000ドルも払った検査を、はるかに安価にできると確信するようになった
- ララキにとって、このアイデアは個人的な動機とも結びついていた
- 祖母は乳がんで亡くなり、母は2度の乳がんを乗り越えた
- 自身も検査の結果、BRCA2変異を持っている
- ララキのソフトウェア的な視点: 「遺伝データ解析はソフトウェア中心のプロセス」
- これを土台にTwitterを離れ、がん検診をより安価でアクセスしやすくするソリューションの構築を始めた
- しかし、市場については何も知らなかった
- 自分が知っている領域であるプロダクトビルディングを学習フレームにし、数年にわたる反復実験と仮説検証を進めた
- 主な転換点
- 消費者直販(D2C)検査サービスは失敗
- 顧客獲得コストが高く、臨床・保険システムから分離されていたため、成長に限界があった
- Colorはバーチャルがんクリニックへ拡張
- 販売先を雇用主・健康保険プランへ転換
- 臨床フローと保険構造に合わせたモデルを構築
- 消費者直販(D2C)検査サービスは失敗
- 成果: 米国国立衛生研究所(NIH)、American Cancer Societyなどとパートナーシップを結び、企業価値10億ドルを達成
- 意味: 単なる市場調査やTAMデータを超え、見知らぬ市場で実際に製品を作りながら学ぶプロセスの事例
- ララキがヘルスケア業界を学んだ実際の方法であり、初期の起業家たちへの助言は次のとおり
部外者として製品を作るときに注意すべき失敗パターン
- 新しい業界でビルドを始めるときは、第一原理的思考と同時に、「すでに多くの人がこの問題に取り組んできた」という謙虚さをバランスよく持つべき
- ララキは初期にこの助言を自分で守れなかったと振り返り、保険会社や研究機関のような不慣れな領域で経験した試行錯誤に触れている
- 初期仮説に執着すること
- 初期の成功(資金調達、キーパーソン採用など)が、仮説が正しいという誤った自信を与えうる
- 実際には、何が機能するかは何年にもわたるピボットと修正を通じてしか分からなかった
- Colorの初期製品は安価なD2C遺伝子検査だったが、CACは高すぎ、LTVは低く、保険・臨床ワークフローともつながっていなかったため、拡張に制約があった
- その後、医師向け医療用検査へピボット → 医師の反応は良かったが、保険請求の摩擦で収益性が悪化
- 再び雇用主の健康保険福利厚生モデルへ転換 → 効果はあったが、単一検査中心だったためスコープの限界で早期に成長が鈍化
- 自分がいちばん賢いと思うこと
- 「この問題がまだ解決されていないのは、以前の人たちが愚かだったからだ」という傲慢に陥りやすい
- 参入初期の無知は謙虚さで相殺できるが、傲慢さは業界で深刻なしっぺ返しを受ける
- 他人の行動が不合理に見えても、実際にはそれぞれのインセンティブ構造を理解していなかっただけだと気づいた
- 偽陽性にだまされること
- 投資資金やネットワークの影響で得た初期顧客を、本当のトラクションだと誤認しやすい
- Colorもネットワークや影響力のおかげで初期顧客を獲得したが、それは一般化もスケールもできなかった
- 「この製品は本当にインセンティブ構造の中で勝ち、採用されたのか。それとも単に影響力のおかげなのか」を見分けなければならない
- 有名VCや元FDA長官のような人物が取締役会にいることで得られる成果は、PMFの錯覚を引き起こしうる
まず金と意思決定の流れを解きほぐせ
- チャーリー・マンガーの言うとおり、「インセンティブを見せれば結果を見せられる」という洞察は、新しい市場を理解する出発点だ
- 多くの技術者は現状を無能さのせいだと誤解するが、実際には制約の中での合理的な意思決定が積み重なった結果である
- ララキは技術者ではなく、人類学者のようにアプローチしてヘルスケア業界の取引プロセスを学んだ
- 保険請求担当者や建設調達マネージャーのような業界リーダーとの探索的な会話が学習の核心だった
- 「起業家が十分な人数と話さないというミスをよく見る」という助言
- 方法論
- ニュース、LinkedIn、研究論文などから関係者を探し、数打つゲームのように継続的に接触する
- 会話の目的: 取引がどう進むのか、金とインセンティブの流れをマッピングすること
- 供給者(Suppliers)
- 製造業者(Manufacturers)
- 流通業者(Distributors)
- 購買者(Buyers)
- 企業市場はモザイクのようなもので、遠くから見ると1枚の絵だが、実際には多数の小さな画像がつながっている
- 消費者市場と異なり、ヘルスケアは複数の買い手が絡む複雑な構造なので、どの買い手を攻めるかを柔軟に決めるべき
- 深い学習ポイント
- 購買プロセスの細部として、誰が影響力・意思決定・価格・条件を左右し、どう支払いと収益が生まれるのかを必ず解剖しなければならない
- ヘルスケアの特殊性
- サービスの受益者は一般消費者
- 経済的な購買者は健康保険プラン・大企業の自家保険・政府
- 処方者は臨床医
- これらのインセンティブが一致しない構造が最大の難題
- 保険構造の複雑さ: 同じBlue Shieldのカードでも、個人プランと大企業の自家保険では力学がまったく異なる
- 規制(FDA, HIPAA, CLIA)はむしろ管理可能な要素であり、本当に難しいのは
- 分断された買い手の問題
- 流動性の低い市場構造
- 実務的な示唆
- 製品の差別化が、すべての参加者のインセンティブにどう作用するかを分析すべき
- ある参加者に不利なら、それを乗り越える方法、または他の参加者が圧力をかけるほどの大きな価値を提供する必要がある
- ホイールを売ろうとするのではなく、車を買おうとしている人の文脈を見よという比喩のように、技術的イノベーションも買い手の視点では単なる機能にすぎないことがある
- 製品の差別化が、すべての参加者のインセンティブにどう作用するかを分析すべき
- Colorの製品進化の事例
- ララキは、検査ソリューション自体は独立した製品として成立しないと気づいた
- ヘルスケアの買い手は消費者・保険会社・雇用主・臨床医に分断され、インセンティブが対立していた
- Colorはあらゆる買い手を試した末に、がんが主要なコスト要因だと確認
- 遺伝子検査は単なる機能にすぎず、大手保険会社や雇用主が実際に支払うのはがんコスト削減ソリューションだった
- そのため製品を単純な検査からバーチャルがんクリニックへピボットした
専門家プールを組成し、製品形成に活用する
- 専門家の招へいは、早い段階から創造的に試みることができる
- ララキは、「セレブ専門家」よりも、科学に献身する現場型の専門家のほうがはるかにオープンで実質的に貢献してくれたと強調する
- 管理職から1〜2段下がって、実際の実行を担う人を探すべき
- Colorはいまでも「世界最高の頭脳リスト」を作り、彼らに直接連絡して協業を模索している
- **「話すだけの人ではなく、実際に仕事をする人をアドバイザーとして探せ」**という助言
- 成功するコールドアウトリーチの方法
- 会社のミッションと創業者の個人的動機を前面に出す
- 例: 遺伝学とがんの関連性を明らかにしたMary Claire Kingにメールを送り、彼女は事業経験がなく反ビジネス寄りだった
- Colorは「個人的なつながりと科学的厳密性を土台にモデルを変えたい」というストーリーを伝えた
- 徹底した検証の後、Kingは緊密な科学的協力者として参加した
- 報酬構造
- 現金の時給モデル: 非技術系の専門家にも理解しやすくシンプル
- 多様な報酬方式: 研究支援、パートナーシップなど業界事情に合わせた柔軟なアプローチ
- 中には金銭報酬なしで純粋に助けたいと考える人もいる
- 専門家との協業を通じた学習
- 製品を専門家の手に渡せば、買い手が何を重視するかを把握できる
- MVPの境界設定: 遺伝カウンセラーや科学の専門家が最低限の基準線を示す
- ヘルスケアでは科学的厳密性が信頼を得るための必須条件であり、Colorはそれを初期から確保した
- Colorはリリースまでに2年を要し、「最初に確立したrigorは会社の生涯を通じて持続する」という教訓を得た
- 科学的・臨床的文脈での「scientific rigor」は科学的厳密性または臨床的妥当性を意味する
- つまり、研究や製品開発において甘さのない、徹底的に検証された基準を設けるという意味
- 初期版の製品を共有したとき、臨床現場では既存価格の1/20の水準で高品質な製品を作れるという確信を示した
- Colorはリリースまでに2年を要し、「最初に確立したrigorは会社の生涯を通じて持続する」という教訓を得た
- 社内チーム編成
- アドバイザリーボードだけでなく、エンジニアと科学者の2本柱を社内に置いて製品開発を主導
- 共通点: ミッション志向で、不確実性の中でも行動を優先する姿勢
- Twitter・Google時代に一緒に働いた優秀なエンジニアを採用し、学界出身の科学者も加わった
- 一部のエンジニアはキャリア初期からヘルスケアへの情熱を持っており、Colorへの参加は彼らの本来の情熱の再発見につながった
- これは今日に至るまでColorの差別化要因として機能している
- 限界と注意点
- 初期チームは科学面では強かったが、ビジネス経験が不足していた
- Go-to-market戦略を反復的に試す必要があるとき、単一のプレイブックにしか依存しないシニア人材の採用には注意すべき
- 経験はオープンさ、創造性、レジリエンスと釣り合っていなければならない
- COVID期の転換
- 専門家への投資のおかげで、製品は別の機会も迎えた
- Colorは大規模検査・ワクチン配布インフラへ素早く転換できた
- 物流、ソフトウェア、ラボのインフラを備えていたため、公衆衛生システムや都市・州政府を支援できた
- 「誰もがワクチンや検査そのものに注目していたが、実際には**デリバリー(delivery)**こそが最大の問題だった」と強調
- 結果としてColorは、50州の医療ライセンスと公衆衛生運営能力を持つ垂直統合型ヘルスケア企業として位置づけられた
- 現在はAmerican Cancer Societyと提携し、大企業・労組・健康保険プランに総合バーチャルがんケアソリューションを提供する会社へ発展している
実質的なCOGSがあるならユニットエコノミクス分析を行え
- ララキとギルの初期の洞察は、遺伝子検査コストの低下から生まれた
- しかし事業の妥当性を検証するにはユニットエコノミクス分析が必要であり、それをスプレッドシートで細かく計算した
- 遺伝子検査を構成するあらゆるコスト要素を列挙し、高品質な検査を消費者価格帯で提供できるという仮説を立てた
- ララキの原則
- 「大きな誤差幅を含む大雑把な数字ではなく、製品提供に必要なすべての工程を丁寧に計算して実コストを算出すべきだ」
- 初期の差別化要因は価格であり、目標は数百ドル水準
- 当時人気だったVitamixミキサーが300ドルで、それを基準にそれより安くしようという目標から、250ドルを価格ラインに設定した
- 価格ラインから出発してユニットエコノミクスを逆算
- 検査コストを支配するいくつかの主要なCOGS(Cost Of Goods Sold)項目を見つけ、そこを集中的に交渉
- 標準的な市場価格をそのまま受け入れず、構成要素ごとに調整した
- ララキが見つけた柔軟性確保の方法
- 値引き依頼: 実際にはたいてい値引きを得られる
- 代替オプションの確保: 代替手段があるという事実だけで交渉力が増す
- 売り手のインセンティブ把握: 四半期末の実績、前払い、大口発注かどうかなど
- 供給のアンバンドル: 不要な安全マージンを取り除き、コストを最適化
- ララキが指摘する誤解
- 多くの起業家は、価格が単純にコスト削減から生まれると思っている
- 実際には、流通を握る中間者の市場支配力とインセンティブが価格を左右する
- Colorの価格設定が与えた影響
- ユニットエコノミクス分析の結果、初期の遺伝子検査を250ドルで販売可能という結論に至った
- しかし成功していた既存企業は、COGSではなく市場アクセスコスト(営業・保険請求)が高いため、高価格を維持していた
- Colorが250ドルという基準線を示したことで、結果的に市場全体の価格を引き下げる触媒になった
- ただし核心の問いは、「本当にこの価格で事業を持続できるのか」だった
既存プレイヤーを研究してウェッジと戦略を見つけよ
- インカンベント(Incumbent) とは、特定市場ですでに地位を築いている既存の強者または既存プレイヤーを指す
- 例: ヘルスケア市場の保険会社、大規模病院、既存の遺伝子検査会社のように、すでに市場を支配するか大きな影響力を持つ企業
- 新生スタートアップと対比される概念で、新規参入者(New Entrant) と違い、長年かけて顧客・流通網・規制適応力を確保している状態
- したがって「インカンベントを研究する」とは、すなわち既存強者の価格設定、流通構造、インセンティブ体系、市場支配の方法を分析することを意味する
- 製品差別化を定義したら、次に市場の既存プレイヤーと比較し、彼らが使う製品を調べるべき
- Colorの初期ウェッジは価格だった
- 既存インカンベントは遺伝子検査に4,000ドル以上を請求しており、ララキとギルは劇的に安い価格で市場を広げられると考えた
- しかし、新しい技術だけではビジネスモデルにならない
- ララキは、買い手が単純な需要供給の法則に従うと誤解した失敗に言及する
- 保険会社や医師は、価格が90%下がればもっと多く買うか高価な選択肢を避けると考えたが、現実はそうではなかった
- Colorがインカンベント研究から得た教訓
- 保険会社は単一ベンダーからだけ調達することができなかった
- 購入量を増やせる唯一の方法は検査適格基準を緩和することだったが、特定企業だけに適用することはできず、業界全体に同じように適用しなければならなかった
- サービスへのアクセス制限は中価格帯または高価格帯を前提に設定されているため、低価格リーダーシップは市場アクセスを高めず、マージンを減らすだけの効果をもたらした
- 保険会社は高額検査の乱用を防ぐために意図的に摩擦を導入しており、その結果、検査会社は回収・営業コストに莫大な費用を費やさなければならなかった
- Colorは、「検査需要が10倍以上に増えればコストも90%下がるだろう」という前提が誤りだったと気づき、検査事業ではなくソリューション事業へ転換した
- 真の買い手は大企業と労組であり、彼らは包括的なサービスを必要としていた
- 市場構造の現実
- ヘルスケアは流動性の低い市場
- 消費財市場と違い、より競争力のある製品が出てもすぐに市場を取れるわけではない
- 保険会社がサービスからマージンを抽出し、市場アクセスのメカニズムを握っているため
- より良い製品を出しても、なお市場参入障壁を突破しなければならない
- 戦略的示唆
- 既存の保険会社のような基本的な買い手が合わないなら、上流または下流で新しいセグメント(例: 雇用主)と新しいバンドリングモデル(例: 垂直統合サービス)を見つけるべき
- ララキは、このようなウェッジを見つけるアプローチはAI時代にも有効だと強調する
- 多くの企業が既存顧客向けに、より良いAIベース製品(「より良いネズミ捕り」)を作っているが
- 本当の機会は、既存のサービス境界を新たに定義する場所から生まれる
まだコメントはありません。