- S&P 500企業のうち374社が決算発表でAIに言及したが、6,000人の経営幹部を対象とした調査では約90%が、この3年間でAIは雇用や生産性に影響していないと回答
- 1987年のノーベル経済学賞受賞者Robert Solowが提示した生産性パラドックスがAI時代に再現されており、マクロ経済データではAIの効果が観測されていない状況
- 経営幹部のAI利用時間は週あたり約1.5時間にすぎず、回答者の25%は職場でAIをまったく使っていない
- ManpowerGroupの調査では2025年のAI定期利用は13%増加したが、技術に対する信頼度は18%低下
- 1970〜80年代のITブームが1990年代の生産性急上昇につながった前例があり、AIにもJカーブ型の遅延後成長の可能性がある
Solowの生産性パラドックスとAI
- 1987年、経済学者Robert Solowは、トランジスタ、マイクロプロセッサ、集積回路、メモリチップの登場後にもかかわらず、生産性上昇率が1948〜1973年の2.9%から1973年以降は1.1%へ低下したと観測
- 「コンピューター時代はいたるところで見えるが、生産性統計には現れない」という有名な表現を残した
- 当時のコンピューターはむしろ過剰な情報を生み出し、過度に詳細なレポートを大量印刷するなどして生産性を損なっていた
CEO調査結果: AIの実質的影響は限定的
- 2024年9月〜2025年にかけて、S&P 500企業374社が決算発表でAIに言及し、導入を前向きに評価
- NBER(National Bureau of Economic Research) が今月公表した研究で、米国・英国・ドイツ・オーストラリアの経営幹部6,000人を対象に調査を実施
- 約3分の2がAIを使っていると答えたが、利用時間は週あたり約1.5時間にとどまった
- **回答者の25%**は職場でAIをまったく使っていない
- 約90%の企業が、この3年間でAIは雇用や生産性に影響していないと回答
- それでも経営幹部は、今後3年間でAIが生産性を1.4%、産出を0.8%増加させると見込んでいる
- 企業は雇用が0.7%減少すると予想した一方で、個々の労働者はむしろ0.5%の雇用増加を見込んだ
学術研究のあいだで分かれる結果
- 2023年のMIT研究では、AI導入により労働者の成果が最大40%向上しうると主張
- しかし2024年までに企業のAI投資が2,500億ドル超に急増したにもかかわらず、約束された生産性向上は実現していない状況
- ApolloのチーフエコノミストTorsten Slokは、「AIは雇用データにも、生産性データにも、インフレデータにもどこにも見当たらない」と発言
- Magnificent Sevenを除けば、利益率や収益見通しにもAI効果の兆候はない
- セントルイス連邦準備銀行は、ChatGPT導入後、累積生産性成長率が1.9%超押し上げられたと発表
- 一方、2024年のMIT研究(ノーベル賞受賞者Daron Acemoglu)は、今後10年間で0.5%の生産性上昇というより保守的な数値を提示
- Acemogluは「0.5%を過小評価すべきではないが、業界やメディアが約束してきたものと比べれば期待外れの水準だ」と評価した
労働者の信頼低下と企業の対応
- ManpowerGroupの2026 Global Talent Barometer調査(19か国の約14,000人の労働者が対象)では、2025年のAI定期利用は13%増加したが、技術の有用性に対する信頼度は18%低下
- IBMのCHRO、Nickle LaMoreauxは、先週新卒採用を3倍に増やすと発表
- AIが一部業務を自動化できても、初級人材を置き換えれば将来的に中間管理職不足やリーダーシップ・パイプラインの危機を招く可能性があるとの判断
AI生産性の今後の見通し
- 1970〜80年代のITブームは、数十年の停滞の後、1995〜2005年の生産性上昇率1.5%増へとつながった前例がある
- Stanfordデジタル経済研究所長Erik Brynjolfssonは、第4四半期GDPが3.7%成長率を記録している一方で、雇用増は18万1,000件へ下方修正された点から、生産性急上昇のシグナルを捉えている
- 独自分析では、米国の昨年の生産性は2.7%上昇しており、これをAI投資から実際の便益回収段階への移行と解釈
- 元Pimco CEOのMohamed El-Erianも、AI導入によって雇用成長とGDP成長のデカップリングが進行中だと述べ、1990年代のオフィス自動化期に似た現象だとした
- Slokは、AIの将来の影響が、初期の成果鈍化の後に急上昇するJカーブ型をたどる可能性があると分析
- ただし1980年代のITとは異なり、現在のAIツールはLLM間の激しい競争によって価格が下がり、容易に利用できる
- したがってAI生産性の将来は、製品自体の価値ではなく、各経済部門で生成AIをどう活用し実装するかにかかっている
1件のコメント
Hacker Newsの意見
この記事はAIの生産性をめぐる論争を批判しているのではなく、ソローの生産性パラドックス(Productivity paradox)に従えば「予想された現象」だと説明している。
1970〜80年代にもIT投資は莫大だったが、経済全体での純利益が現れたのはずっと後の1990年代後半になってからだった。
初期にはコストが高すぎ、試行錯誤も多かったからである。AIも同様で、今は金も時間もかかるが、徐々に統合と効率化が進めば生産性は上がるはずだという見方。
技術に詳しいHacker Newsですら「AIはコード生成ができない」と信じている人が多い。
Amazon出身の友人でさえ、ChatGPTの「thinking」機能を有効にしないと高品質な結果が出ないことを知らなかった。革新的な影響は、使い方に慣れるまでは期待しにくい。
PDF原文リンク
たとえばClaudeのサブスクリプション料金は従業員1人あたり月20ドル程度で、Slackのようなツールと似た水準だ。
1970年代に事務職がコンピューターを学んでいた時代と違って、オンボーディングは非常に簡単で、短期的な効果もすでに一部で現れている。
数百万台のコンピューターがネットワークにつながったことで、本当の経済的効果が生まれた。
関連分析はFT記事やApollo Academyの記事でも確認できる。
私は大企業を、**欠陥のあるハードウェア(人間)**の上で動く分散システムとして見ている。
各個人(CPU)は速いが、会議・承認待ち・並列化できない業務などによる遅延が大きい。
アップグレードの前に、I/OボトルネックなのかCPUボトルネックなのかを把握する必要がある。
プロジェクトが多すぎて集中できず、キャッシュの問題も起き、結局ボトルネックがさらに悪化した。
組織の記憶をすばやく取り出して使えるようにしなければならない。キャッシュがなければ問題解決に時間がかかり、誤った情報がキャッシュに入れば、皆がそれを信じて間違った方向へ進んでしまう。
完成度は低いかもしれないが、はるかに俊敏でコスト効率も高い。
ホワイトカラー業務の大半は考えて話すことだ。
コーディングは思った以上に実装の比重が大きかったが、他の職種は会議・調整・スライド作成・市場ポジショニングなどで構成されている。
Coworkのようなツールはファイル探索、チケット整理、Excelの数式作成などを助けられる。
しかしコードはビジネス上の意思決定の産物なので、LLM自動化に最も適した形である。
一方で他の職種は単にスピードが上がるだけで、完全自動化まではまだ遠いと思う。
ほとんどのエンジニアリングは結局、協議と足並み合わせが不可欠だ。
良い品質のコードを書くには、コーディングの2倍は考える必要がある。
1時間節約しても、その分だけより価値の高い仕事をするとは限らない。むしろ不正確なスライドができて、他の人が修正しなければならない損失が生じる。
LLMのおかげで、同じ量の思考でより多くのコードを生産できるようになった程度だ。
たとえばHazel.aiは、米国のRIAの90%より優れた税務・投資計画を提供している。
これによりRIAの手数料は1%から0.1〜0.2%程度まで下がるだろうと見ている。
シニアエンジニアとして感じるに、遅い部分はコードを書くことではなく、レビューと承認の手続きだ。
コードレビュー、ステークホルダーからの意見収集、テストの遅延、文書化、プレゼンテーションなど。
こうした検討プロセスが社内でも繰り返し発生し、ボトルネックを作っている。
特異点(singularity)に近づくほど、世界は混沌として予測不可能になる。
急激な変化の中では、あらゆるものがノイズのように感じられる。
今は単に「世界はより予測可能になったのか、それともそうでなくなったのか」と自問すべき時期だ。
NBERの原論文を見ると、
産業別のAI導入率(A6)、雇用への影響(A11)、生産性への影響(A12)が載っている。
顧客接点が多い、あるいは物理製品中心の産業(建設、小売)はAIの影響が低い。
意外にも宿泊・飲食業が生産性への影響4位と高く出ていて興味深い。
うちの会社はまだAI導入が遅い。
今日、「AI利用量が低すぎるのはよくないかもしれない」という圧力を受けた。
おそらく6か月〜1年後には「これは金の無駄だったな」という結論になるだろう。
自分の人事評価まで自分で書かせるのと大差ない。
Microsoft Copilotを含むFortune 500でのAI試験導入を見ると、
依然として多くの大企業がAI機能をきちんと理解していない。
上級経営陣は怠慢のせいで、自分では直接使ってみようともしない。
メール作成、スライド作成、検索などはすでに十分簡単だ。
本当の強みは文字起こし、翻訳、画像認識、APIベースの問題解決のような低レベル作業にある。
革新性はあるが、「万能の加速装置」ではない。
教育不足が生産性低下の原因だ。
特にMicrosoft CopilotはAIの中でも最悪の実装で、がっかりさせられる。
そのせいで実際の生産性向上を実感している人がほとんどいない。
従業員の立場では、LLMは宿題のカンニングツールのように感じられるかもしれないが、
CEOの立場では**レビューすべきコンテンツの爆増(DDoS)**に見える。
155ページの文書がWhatsAppで送られてきたり、PRが殺到したりする状況では、
「これを誰が全部レビューするんだ」という問題が生じる。
結局AIはリスク増幅器だ。
今の私たちは、コンピューティング世界における地球温暖化級の出来事へと盲目的に突き進んでいる。