- AIによって製品実装のコストと時間は大幅に下がったが、何を誰のために作るべきかを決める戦略のボトルネックはそのまま残っている
- デザイン業界の議論は役割・制作能力・審美眼・標準のようにどう上手く作るかに集中しているが、製品を実際に殺す相手は無関心と代替手段、乗り換えコストを持つ市場である
- 実装が高価だった時代には、限られた金と時間が間違ったアイデアを事前に検証するよう強制していたが、安価な反復は中止すべき製品を完成品のように作り続ける構造を生んでいる
- 標準と審美眼はあふれる選択肢の中から良い結果を選ぶために必要だが、誰も望まない製品を優れた品質で作ってしまう問題までは防げない
- AI時代の最も大きなレバレッジは制作速度ではなく、何が存在する価値を持つのか、誰のどんな問題を、なぜ今解くべきなのかを決定する能力にある
実装は簡単になったが、製品は見つかっていない
- ある会社は2年半の間に4回にわたって製品を構築し、作り直したが、今なお誰のための製品なのか答えられていなかった
- 音声インターフェースや洗練されたWebアプリ、高度な問題解決エンジンまで実装したが、関心を示す顧客と接点を持てなかった
- 実装がボトルネックではなかったため複数のアイデアを試せたが、試行の間に明確な意思決定や手順はなかった
- その製品は、病気を治せるかもしれない分子を発明しながらも、製造・流通の仕組みや患者が誰なのかを知らないバイオテック企業になぞらえられている
- 製品を作るコストがほぼ消えた状況でも、成功を左右する存在理由と対象顧客は十分に議論されていない
- Roman Pichlerのプロダクト戦略フレームワークは、実行より上位にある中核的な選択を2つに要約している
- 製品は誰のためのものか
- その人はなぜその製品を欲しがるべきなのか
- プロダクト組織の役割は実装物を生産することではなく、何を作る価値があるかを決めることである
デザイン業界が狙っているのは間違った問題
- AI以後のデザイン議論はさまざまな形を取っているが、その大半は製品をどう作るかにとどまっている
- Lisa Demchenkoは、プロダクトデザイナーが仕様書作成者からシステム設計者へ移ると見ている
- Andrea Grigsbyは、AIに置き換えられにくい競争力として審美眼(taste) を挙げている
- Patrick Neemanは、ブラウザ戦争を終わらせたWeb標準の連合をAI時代の対応策として提案している
- 役割・制作能力・審美眼・標準・システムはすべて成果物の品質には関係するが、その成果物がそもそも存在すべきかには答えられない
- 業界は作業品質については精緻な議論を発展させてきたが、その作業を本当にやるべきかという問いには弱い
本当の相手は市場の現実である
- プロダクト組織内部のデザイナー・開発者・プロセスは競争相手ではなく、同じ目標に向かう構成員である
- 最終的に製品を拒否できる相手は、製品を欲しがるはずの現実の人々と市場である
- 市場はチームがどれほど努力したかを考慮しない
- ルールを教えず、製品を作っている間に条件を変え、理由も説明せずに無視できる
- 無関心・代替手段・乗り換えコスト・限られた注意が製品と競争する
- 制作能力は近距離で品質を高めるナイフであり、戦略は市場の現実に届く射程を持つ銃になぞらえられている
- 業界は銃撃戦に入っているにもかかわらず、制作能力という美しいナイフをさらに鋭くすることに集中している
高い実装コストが担っていた検証
- 製品が失敗する主な理由は、ボタンの色やコードのアンチパターンよりも、間違ったものを確信を持って作り、誰も適切なタイミングで止めなかったことにある
- 2009年にマンハッタンのEast Villageでバー
Destinationを開いたとき、周囲には少なくとも6軒の競合店があった- クラフトビールバー、スポーツバー、アイリッシュパブ、ダイブバー、ゲイバー、ドイツ風の店がすでに存在していた
- 支出前に周辺店舗を調査した結果、一日中いられる近所のリビングのような空間が空いているという戦略を立てた
- 資金15万ドルと6週間、そして一度きりの機会しかなかったため、間違ったバーを作る選択は許容できなかった
- 金・時間・物理的な労力という制約は、アイデアが誤っていた場合にコストが発生する前に、正直に検証するよう強制していた
- 実装コストは洗練された戦略ツールではなかったが、悪い意思決定を防ぐ最後の偶然の安全装置として機能していた
安い実験は中止する力を弱める
- AIによって実装が速く安くなると、アイデアが本当に良いのか立ち止まって確かめる理由が減り、次の反復へ進み続けやすくなる
- Cloud Native Patternsの実験コスト削減パターンは、実験コストが下がるほど失敗したアイデアを捨てさせる圧力が弱まり、すでに費やした努力に縛られる傾向が製品を長く生き残らせうると整理している
- 複数の試みがそれぞれ速く、もっともらしく、完成品のように見えると、チームはそれを進捗だと誤認しかねない
- 2年半後になっても実際の顧客価値につながっていなかった事実を、あとから発見する可能性がある
- AJ Sunderの構築と購入の比較は、意味のあるソフトウェアを午後の半日で作れるようになると、基本的な問いが「なぜ自分たちで作らないのか?」へ変わると見る
- この選択は、明示的に決めていない技術的負債や運用負担につながりうる
- Andrew Bosworthのプロダクト原則は、人間が抱える問題を先に見つけ、それを解決できるかを問うところから始めている
- すべてのプロセスを速くすると、正しい目的地に早く着くだけでなく、完成品のように見える間違った目的地にもより早く到達してしまう
消えたコストはチームへ移る
- 実装コストが予算に表れていたときは、予算承認が意思決定を強制していたが、実装がほぼ無料になるとコストは消えるのではなくチームへ転嫁される
- すべてを作って反応を見るやり方は、戦略というより終わりのない非常訓練に近い
- 理由を説明できない方向転換が繰り返される
- 構成員の夜と集中力が消耗される
- 成果物はより美しく、あるいは強力になるかもしれないが、この6か月の人的コストは見えにくい
- 意思決定なき反復的な非常事態はチームを強くするどころか疲弊させ、他に選択肢のある有能な人ほど先に去る可能性がある
よくできた製品と必要な製品は違う
- 標準は製品を正しく実装させ、審美眼は成果物の品質を高め、AIが無限に成果物を生み出すほど両者の重要性も高まる
- Jakob NielsenのAIキュレーション論は、アイデア生成が事実上無料になることで、選択肢を生み出すことよりも良い選択肢を見分ける識別能力が希少になると見ている
- 標準も審美眼も選択を上手く行うための能力だが、誰も望まない製品を完璧な品質と仕様で実装してしまう状況までは防げない
- Marty Caganのプロダクトチームとフィーチャーチームの区別は、機能を効率よくリリースするチームと、顧客の問題を解決するチームを区別している
- 間違ったものをリリースするなら、リリース効率には価値がない
- AIによって「実装できるか」という実現可能性リスクは大きく下がったが、「存在すべきか」という価値リスクはそのまま残っている
- Gale Robinsは、何を作るかを把握する活動と成果物を短期戦、何を作る価値があるかを判断する能力を長期戦として区別している
- AIは短期戦を速くしたが、長期戦の難しさは下げていない
顧客が製品を雇う理由
- Clayton ChristensenのJobs to Be Doneは、顧客は製品そのものを買うのではなく、特定の仕事をこなすために製品を雇うと考える
- McDonald’sのミルクシェイク研究では、かなりの数が午前8時前に通勤客へ販売されていた
- 通勤客は長く退屈な運転時間をやり過ごし、昼食まで満腹感を保つためにミルクシェイクを選んでいた
- 実際の競争相手は他のミルクシェイクではなく、ベーグルと退屈さだった
- こなすべき仕事を見つければ製品設計は明確になるが、その仕事を取り逃がせば最も美しい製品でも選ばれない
- AIは、顧客がどんな仕事のために製品を雇うのか自ら理解しないまま、新しいミルクシェイクを作り続けられてしまう
Skiftが4本の脚を切り落とした過程
- Rafat Aliは、Skiftを始めるにあたりコンテンツ戦略を4本の脚として設計した
- 記事収集
- キュレーション
- シンジケーション
- 独自取材
- 初期構造は論理的で投資家にも説明しやすかったが、実際の読者は集めた見出しに関心を示さなかった
- 4本の脚は3本、さらに2本へと減らされ、ベンチャー投資家が聞きたがる計画を捨てて初めて機能する製品を見つけた
- 製品構築が難しかったのではなく、公開市場の中で人々が求める部分を見つけ、求められない部分を削ることが核心だった
- 当時は4つの要素を実装するのに実際の時間と金がかかったため、成果を細かく見て切り落とすことができた
- 同じローンチをAI時代に行えば、数日で4つどころか頼まれてもいない機能まで完成してしまうかもしれない
- すべての機能が完成品のように見えることで、何を削るべきかを教えてくれていたシグナルが、容易な実装プロセスの中に埋もれてしまう可能性がある
意思決定こそが最後に残る最重要スキル
- 優れた品質は製品議論に参加するための前提条件だが、よくできているという事実は正しい製品であることを意味しない
- AIは昼食前までに何百もの答えを作れるが、実際に必要な答えが何かは判断できない
- Buzz Usborneの発見とデリバリーの区別は、デリバリーコストが下がった状況で何を作るかを決める層まで自動化すると、誰が作っても同じような平均的ソフトウェアだけが速く安く残ると見る
- 実装が遅く高価だったときは、間違った製品を作る失敗が長い制作過程に隠れることもあったが、実装コストが下がることで判断力の欠如が直接あらわになる
- プロダクト担当者の最大のレバレッジは、次の3つを決めることにある
- 何が存在する価値を持つのか
- それは誰のためなのか
- なぜ今必要なのか
- Roman Pichlerが言う戦略と実行のギャップのうち実行側では、ロードマップや儀式化された手順、リリース活動で忙しくできるが、意思決定の責任を代替することはできない
- Joe Smileyのデザイン成熟度に関する議論は、上級人材が戦略ではなく制作現場の緊急対応に投入される状況を扱っている
- 誰でも何でも作れるようになった時代には、何を作る価値があるかを知る能力だけが残された中核的レバレッジであり、市場が結論を下す前にプロダクト組織が先に決めなければならない
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