- 機能的磁気共鳴画像法(fMRI) は脳活動を測定する主要なツールとして使われてきたが、最近の研究はその解釈の正確性に根本的な疑問を投げかけている
- 研究の結果、MRIで測定された酸素濃度の変化と実際の神経活動の間には、一般的に有効な関連性がないことが確認された
- 実験では、**fMRI信号が増加したにもかかわらず脳活動は低下したケースが約40%**あり、逆に信号が低下したのに活動が増加したケースも観察された
- 脳は血流量を増やさずに、既存の血液から酸素をより効率的に抽出することでエネルギー需要を満たしていることが示された
- これらの発見は、精神・神経疾患研究の解釈方法と、脳のエネルギー代謝に基づくモデル開発に重要な転換点を示している
fMRI信号解釈に関する従来の前提の崩壊
- 約30年にわたり、fMRIは脳研究の中核ツールとして使われてきたが、TUMとFAUの研究チームは、その解釈が実際の神経活動を反映していない可能性を実証した
- 研究は Nature Neuroscience に掲載された
- MRIで測定される酸素含有量と神経活動の間に、普遍的な相関関係は存在しないことが確認された
- 実験の結果、**fMRI信号の増加がむしろ脳活動の低下と結びつくケースが約40%**にのぼった
- 逆に、信号の低下が活動の増加と一致するケースも見つかった
- 従来の「活動増加 → 血流増加 → 酸素需要の充足」という前提が誤っていたことが明らかになった
実験設計と測定方法
- 研究チームは、40人以上の健康な参加者を対象に、暗算、自伝的記憶の想起などさまざまな課題を行わせた
- 同時に、新しい定量的MRI手法で実際の酸素消費量を測定した
- 課題と脳領域によって結果は異なり、酸素消費の増加が血流増加につながらないことが確認された
- たとえば計算に関わる領域では、血流変化なしに酸素抽出効率が上昇した
- つまり脳は、血流量を増やさずにエネルギー需要を満たしている
脳疾患研究への影響
- 血流変化を神経活動の指標として用いる従来研究は、再評価が必要である
- うつ病、アルツハイマー病など、精神・神経疾患研究における解釈ミスの可能性が提起される
- 特に血管変化のある高齢者や血管疾患患者では、測定値が神経の欠陥ではなく血管の違いを反映している可能性がある
- 以前の動物研究の結果も、この方向性を裏づけている
新しい分析アプローチの提案
- 研究チームは、既存のMRIアプローチに定量的測定を組み合わせることを提案している
- 今後のエネルギー基盤の脳モデル構築の基礎になりうる
- 単純な活動マップの代わりに、情報処理に実際に消費された酸素とエネルギー量を示す分析へ発展する可能性がある
- これにより、老化、精神疾患、神経変性疾患におけるエネルギー代謝の変化を絶対値で把握できる道が開かれる
研究背景および出版情報
- 研究は TUM大学病院神経頭部センター(Neuro-Head Center) で実施された
- 欧州研究会議(ERC) の Starting Grant 支援を受けた
- 論文: BOLD signal changes can oppose oxygen metabolism across the human cortex,
Nature Neuroscience, 2025年12月12日, DOI: 10.1038/s41593-025-02132-9
1件のコメント
Hacker Newsのコメント
以前、BMI研究スタートアップで働き、EEGやfMRIのような高価な神経信号計測機器を扱った経験がある。
信号対雑音比(SNR)が低すぎて、再現はほとんど不可能だとすぐに気づいた。
ディープラーニングでfMRI信号から人が思い浮かべた画像を予測したという論文を見たことがあるが、私が「ランダムノイズからでもパターンを見つけるのがディープラーニングなのだから、過学習ではないのか?」と尋ねても、明確な答えはなかった。
1か月後、「AIが今やあなたの思考を読む」といった調子の記事が出てきて、あきれてしまった。
だから誰かが「マインドフルネスは脳波を変えるらしい」と言うと、「EEGベースの研究なら信頼しにくい」と言うことがある。
もちろん個人的には役に立つと感じている。
重要なのは、動きや生理的ノイズを一次的な問題として扱い、データ品質の基準を厳格に適用することだ。
ディープラーニングの過学習問題を一般化しすぎた結論のように思える。
一方でfMRIにそれほどの信号品質があるのかは不明だ。
実験設計が適切なら、fMRIの知識があまりなくても興味深い結果と見なせる。
今回の論文は、血流そのものが脳活動を有用に反映していないという主張だ。
大学院時代、死んだサケから統計的に有意な脳活動が検出されたという論文を読んだ記憶がある。
そのとき「これはIg Nobel賞ものだ」と思った。
fMRIで適切な統計補正をしないと偽陽性が発生しうることを示し、2012年にIg Nobel賞を受賞した。
私はこの分野のソフトウェアエンジニアとして、今回の研究は従来のBOLD信号を別のMRI手法で検証しようとする試みだと理解している。
ただし両手法とも複数の統計的仮定とデータ加工の段階を経ており、その過程自体に不確実性が含まれている。
たとえば「信号が粗いならGaussianフィルタで滑らかにする」といった恣意的な処理だ。
なので、「信号Bが信号Aは実際の脳活動を反映していないと示している」と断定するのは難しいと思う。
論文でも、PETスキャナーがないため定量MRIを代わりに使ったと述べている。
真の検証のためには、fMRIやPETなど複数のマルチモダリティで実験を繰り返すべきだ。
TUMには実際にPET装置がある(リンク)。
主に臨床目的で使われていると理解している。
UCSDの大学院時代、Ed Vulの論文 “Voodoo Correlations in Social Neuroscience” が大きな論争を引き起こしたのを覚えている。
fMRI研究における過剰な相関関係の問題を指摘し、最終的にはタイトルがやや穏当なものに変えられて出版された。
Vulは当時助教1年目だったが、分野全体に挑戦した天才的な人物に思えた。
関連論文とコメントは ここ、ここ、ここ で見られる。
このスレッドの大半のコメントは画像の専門家ではない人たちが書いたように見える。
一般向け科学記事の影響を受けた内容が多い。
文献はすでにあるのだから、各自で探せばよい。
少なくとも参考になる論文や資料を示したほうがいい。
なぜ撮影したのかの説明も受けなかった。
死んだサケのfMRI研究を思い出させるタイミングだ(リンク)。
fMRIは以前から不安定な科学的根拠を指摘されてきた。
今ではBonferroniやFDRのような多重検定補正が標準手順として定着している。
実際のポスターは ここ で見られる。
あれがもうそんなに昔のことだとは思わなかった。
関連する話として、サイケデリクスが脳の血流-神経活動の結びつきを壊すという研究がある。
fMRIで血流増加を脳活動の増加と解釈してきた従来研究に疑問を投げかけている。
リンク
しかし実際には、身体の動きや生理反応といった単純な要因が無視されることが多かった。
クラブで幻覚状態の人たちを見て、彼らの血管系が過剰に活性化しているように感じた。
だから「サイケデリック状態では脳の接続性が高まる」という主張には懐疑的だ。
学部時代に参加した研究で、MapReduceとGPUでfMRI解析を高速化していた(リンク)。
2014年のことだが、今見てもあまり変わっていない。
fMRIやSPECTスキャンを一般向けに精神医学の診断ツールのように宣伝するのは危険だ。
Dr. Amenのようなインフルエンサー医師が何千ドルもするスキャンを売っているが、科学的根拠が乏しく保険も適用されない。
脳画像に色を付けて見せると、人はそれを科学的に信頼できるものだと思い込みやすいが、それは一種の**現代版骨相学(non-invasive phrenology)**のように見える。
30年前にCognitive Neurophysiology Labで働いていたときも、こうした話はすでに知られていた。
おそらく今回の論文は、一般大衆にあらためて思い出させる意図なのだろう。
だからこうした議論は繰り返し一般に伝える必要がある。
たとえば老廃物の排出のような過程が原因だったりするのだろうか。
もちろん、非神経的要因や負の相関反応のようなミステリーも存在する。