良いアイデアが大衆の支持を得るために、多くの嘘を必要とすることはない (2008)
(blog.danieldavies.com)- イラク戦争が失敗した原因をビジネススクールの教訓として分析し、信頼と検証の欠如が政策の失敗につながったことを説明
- 中核原則として「良いアイデアは嘘を必要としない」を提示し、大量破壊兵器の主張のような虚偽の根拠が悪い政策の兆候であると指摘
- 「嘘つきの予測は無価値である」という教訓を通じて、誤った情報に基づく判断がなぜ信頼を失うのかを具体的に示す
- 「監査(Audit)の重要性」を強調し、検証のない組織は失敗を繰り返し、責任回避へとつながると警告
- 全体として、正直・検証・責任の原則を欠いたプロジェクトは必ず失敗するという経営学的教訓を政治的事例で立証
D-Squared Digest One Minute MBA – 愚か者たちが進めるプロジェクトを避ける方法 101
- 2004年に書かれた文章で、イラク戦争の失敗を予見した理由を説明し、ビジネススクールで学んだ教訓を政治的判断に適用した事例
- 「良いアイデアが大衆の支持を得るために嘘を必要とすることはない」という原則を中心に、戦争推進の過程でなされた虚偽の主張を批判
- 続いて「嘘つきの予測は無価値である」と「監査(Audit)の重要性」という二つの原則を通じて、信頼できない情報と検証の欠如が失敗へ至る過程を示す
- 文章全体は、企業経営の基本原則を政治的意思決定に適用した形で、信頼・透明性・検証の欠如が大規模な政策失敗につながりうることを強調
- 最後は「嘘を頻繁につくと、結局は嘘つきとして知られるようになる」という教訓で締めくくられる
序文と文脈
- 2008年の更新で著者は Paul Krugman のブログ読者に挨拶し、自身の文句「良いアイデアが大衆の支持を得るために多くの嘘を必要とすることはない」に再び言及
- Krugman がこの文句を Paulson 救済金融案 の議論で引用したが、著者は当該政策について明確な立場はないと述べる
- その代わり、Krugman の著書 “Development, Geography and Economic Theory” を高く評価し、彼を J.K. Galbraith の現代的継承者として言及
- 本文は、イラク戦争を支持していた主要論客たちが立場を変えつつあった時期に書かれたもので、当時の政治的判断の誤りを分析
ビジネススクールで学んだ三つの教訓
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1. 良いアイデアは嘘を必要としない
- 会計の授業で ストックオプション(stock options) の会計処理をめぐる論争を扱いながら得た教訓
- テクノロジー企業は、オプションを費用として計上するとイノベーションが萎縮すると主張したが、Warren Buffett らはそれを 経営陣が株主を欺く手段 と見なした
- 講師は「本当に良い制度なら、むしろ費用として計上し、それを誇ったはずだ」と述べ、正直な会計処理を避ける態度そのものが問題の証拠だと指摘
- この原則をイラク戦争に適用し、大量破壊兵器(WMD) の存在をめぐる虚偽の主張は、その政策が本質的に悪いアイデアだったことを示すと説明
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2. 嘘つきの予測は無価値である
- プロジェクト推進者が結果を誇張する傾向があることを指摘
- 予測が嘘に基づいているなら、その数値を「調整」したり「部分的に参考にする」ことにも意味はない
- Powell, Bush, Straw らの主張は信頼できないと判断し、イラクに実質的な WMD 能力はなかっただろうと結論
- 一方で Scott Ritter や Andrew Wilkie のように、虚偽が証明されていない人物たちの分析の方がより信頼できると言及
- 虚偽の予測は Benford’s Law のような統計的検証によっても露呈しうると付け加える
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3. 監査(Audit)の重要性
- Brealey and Myers の教科書で強調された原則で、プロジェクト完了後に予測の正確性を検証しなければ失敗を繰り返すことになる
- 不誠実な予測に責任を負わない組織は、結局それに見合う結果を迎えることになる
- 失敗と虚偽の前歴がある経営陣に白紙小切手を渡す企業は、それに伴う損失を甘受することになる
- イラク戦争でも、検証されていない人物や機関への信頼が Abu Ghraib のような悲劇につながったと指摘
- 「嘘つきに疑わしき利益を与えるという誤り」は、この世で最も大きな失敗の一つだと強調
結論と次回予告
- 「監査は私たちを守るための仕組みであり、非常に重要だ」という点を改めて強調
- 次の記事の主題として「嘘を頻繁につくと、結局は嘘つきとして知られるようになる」と予告し、信頼の崩壊が政治的プロジェクトの失敗につながることを示唆
- 全体として、正直さ、検証、責任の原則を欠いた政策は失敗するほかないという経営学的教訓を提示
1件のコメント
Hacker Newsのコメント
もともとこの引用は技術系企業のストックオプションについてのものだった
当時は株主を欺く行為のように見えたが、時間が経つにつれてストックオプションを与えた企業は、そうでない企業よりはるかに成功した
結局のところ本当の問題は「嘘」ではなく、新しいアイデアが大衆に受け入れられるまでに時間がかかるという点だった
だから「良いアイデアは結局、嘘がなくても受け入れられる」と修正するのが正しいのかもしれない
関連する会計基準は US GAAP summary で見られる
オプションは株価が下がると価値が消える「アンダーウォーター」状態になりやすく、魅力が低い
逆に、誠実なアイデアがしばしばマーケティングのうまい悪いアイデアに押し負けることもある
正しいというだけでは不十分で、人々に説得力をもって伝えなければならない
文脈としてはイラク戦争の虚偽の大義名分への批判だった
自分を欺いている人は、他人を欺いているという認識すらないかもしれない
特に米国における進歩的なアイデアへの反応でよく見られる現象だ
私は去年電気自動車(EV) を買ったが、燃料費が10分の1に減り、臭いもなくて本当に満足している
これほど明確なアップグレードなのに普及が遅いのが不思議だ
むしろ電気自動車に対する誤解や否定的な認識が多い
高級感と独占性を強調する一方で、肝心の大衆市場を取りこぼしている
「売れるものを過剰に飾り立てると、自分が売れるものを忘れてしまう」という教訓を思い出す
一方、外部の人にはその主張に誇張が混じっていると感じられることがある
AI競争がいちばん心配だ
いくつかの大企業が莫大な資本を投じて、互いに先を争っている
その過程でAIの現在の能力と将来の可能性を誇張し、投資の大義名分を作っている
AIブームが外れても、他社ほど大きな損失は被らないだろう
公共キャンペーン広告の仕事をしていて感じるのは、「良いアイデアに嘘は要らない」という言葉は理想的ではあるが現実的ではないということだ
大衆の受容は真実や社会的利益よりも、利害関係と物語に左右される
石炭火力のような有害なアイデアでも説得力のある形で包装されれば広まり、複雑な良いアイデアは無視される
結局、虚偽の主張に頼らなければ維持できないアイデアなら警告サインだ
再生可能エネルギーより優れている点はまったくない
嘘をつきたくなった時点で、そのアイデアを見直すべきだ
2004年に最初に出て、2008年に少し改訂された文章だった
最近の月探査プロジェクトを見ていて、NASAがいつも「研究の実用的成果(例: Velcro, Tang など)」を強調するのを思い出した
しかし本当の価値は技術的リーダーシップそのものにあり、それを失ってから初めて気づくのだろう
寿命、幸福、教育、社会的流動性、国際的評判など、ほぼあらゆる指標でそのパターンが繰り返されている
アイデアの競争力は真実性より記憶しやすさに左右される
最近Anthropicがなぜここまで攻撃的にマーケティングしているのか気になる
気候変動対策は明らかに良いアイデアだが、今では人々を行動させるためなら嘘でもつくべきではないかとすら思えてくる
ほとんどの人はすでに気候変動対策に賛成しているのに、政治が動かない