ミッション、ビジョン、poTAYto、poTAHto
(longform.asmartbear.com)- ミッション、ビジョン、ノーススター のような用語は、スタートアップ初期には実務の役に立たない抽象概念と見なされがちだが、一部の企業はそれを通じて長期的な方向性を明確に定めている
- 「ミッション」の定義 は2つに分かれる。1つは「より大きな目的」(例: Patagonia, Tesla)、もう1つは「現在の実行目標」(例: McDonald’s, FedEx)
- この記事では、混乱しがちな「ミッション/ビジョン」の代わりに Purpose, N-year Vision, Next Milestone という3つの概念で整理し、世界がどう変わるべきか、いつまでに何をどんな洞察で誰に提供するのか、いま直ちに達成すべき具体的な次の段階は何かを、事例とともに構造化している
- Purpose-driven 企業と Purpose-derived 企業を区別し、後者は本来の動機ではなくても社会にポジティブな効果を生み出せるとする
- 単なる文句ではなく、実際の行動と戦略に統合されたPurpose こそが、組織の持続性と意味を与える核心である
ミッション・ビジョン・目的: 用語の混乱と現実
- Mission, Vision, Purpose, BHAG, North Star のような用語が飛び交っているが、とくに初期スタートアップの視点では「顧客が本当に望むものを探し直すのに忙しいのに、こんな言葉に何の意味があるのか」という冷笑がある
- 会社が大きくなると、たいていはマーケティング部門がこうした文句を磨き上げて “About Us” ページに大きなセリフ体で載せるが、従業員・顧客・投資家の誰も本気では信じていない空虚な文章 になることが多い
- 見た目はもっともらしくても、実際には 壮大さを装った虚勢(grandiose) にすぎない表現が多い
- 「ミッション」という単語だけでも、「宣教師(missionary)型の高次の目的」 と 「現在遂行すべき作戦・任務」 という相反する2つの意味で使われており、概念の混乱が大きい
- Patagoniaのミッションは「私たちの故郷である地球を救う」だが、実際の事業はアウトドア衣料の販売であり、Teslaは「持続可能なエネルギーへの移行を加速する」と掲げながら、実際には自動車、バッテリー、太陽光パネルを売っている
- Coca-Colaは「心・体・魂を爽やかにする」というミッションを掲げるが、実際には 炭酸水に化学物質を混ぜた飲料 を売る会社である
- 一方で 軍隊・宇宙船・大企業のミッション のように、ミッションを「定められた区域を占領・防衛する」「5年間にわたって新しい文明を探査する」「顧客に最も愛される場所と方法になる」「株主に高い財務リターンを提供する」といった 実行目標 として定義する例もある
- McDonald’sは「顧客に最も愛される飲食の場所と方法になること」を、FedExは「高付加価値の物流・輸送ビジネスサービスによって高い財務収益を生み出すこと」をミッションとして明記しており、高邁な理想よりも顧客認識と株主収益に集中した、正直だがやや刺激に欠ける文言 である
- こうした例のせいで ミッション・ビジョンの正確な定義と実質的な効用 に疑問が生じるが、Khan Academy、TOMS、DuckDuckGo、Patagoniaのように言葉と行動が一致している一部の企業は、ミッションを非常に真剣に扱い、実際に成果を生み出してきた例 でもある
目的中心の会社とその効果
- Khan Academyの「無料で高品質な世界水準の教育を、どこでも誰にでも提供する」、TOMSの「人々の暮らしを良くするために存在する」、DuckDuckGoの「プライバシー保護がどれほど簡単かを世界に示す」といった文言は、実際の行動や製品、オープンソース・社会貢献活動と結びついたPurpose である
- Patagonia創業者が会社を信託に託し、地球を守るという歴史が永遠に会社の未来になるようにした決断 も、単なるミッション文句を超えたPurpose実践の例である
- Simon Sinekの “Start with Why” と関連研究は、「自分たちより大きな目的」を持つ会社が得る利点 をさまざまな面から整理している
- 値段が高かったり機能が劣っていたりしても、その会社を自分のアイデンティティの一部のように感じる 忠誠心の高い顧客層 を形成できる
- 給与以上の理由で働く 情熱的な従業員と低い離職率 を確保できる
- 従業員や顧客を搾取する純粋な利益追求企業で満ちた市場における 差別化
- 景気後退や逆風があっても、価格や失敗より上位にある「目的」のおかげで持ちこたえるレジリエンス(resilience)
- メッセージ・優先順位・目標がPurposeによって整列し、一貫性と明確な正当性 を持つ
- 単なる財務リターンよりも 意味のある変化を後押ししたいエンジェル投資家 を引きつけやすい
- よく言われる「目的のある会社のほうが高い利益を生む」という主張は、実証データが弱く、逸話中心 である
- 上位1000社の大半は「目的中心」企業ではなく、ある研究では 「目的+実行」の組み合わせが良い可能性 は示されたが、「目的だけで優れた収益が保証されるわけではない」
- 逆に purpose-washing(表向きだけ目的中心を装う行為) が業績悪化と関連するという弱い証拠もあるが、これも 事後的に解釈できる相関関係 の域を出ない
- 結論として、Purpose-driven会社だけが成功するわけではなく、多くの成功企業はそうではないが、目的から派生したアイデンティティと行動には、なお大きな意味と利点がある
用語の再定義: Purpose, N-year Vision, Next Milestone
- 既存の Mission・Visionという用語がばらばらに使われている問題 のため、
より意味に近い 3つの概念語 Purpose, N-year Vision, Next Milestone を好んで使う- この3つはそれぞれ「なぜやるのか」「どんな状態に到達するのか」「いま直ちに何を達成すべきか」を指す
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Purpose: 自分たちより大きな世界の変化
- Purpose とは「自分たちより大きな世界の変化であり、誰もが喜んで参加したいと思う状態」
- Khan Academyの「すべての人が無料で世界水準の教育を受けられる世界」、Teslaの「世界が持続可能なエネルギーへ移行する世界」
- Purposeは完全に達成される目標というより、「なぜ自分たちはこれをしているのか」「なぜ他の人も気にかけるべきなのか」への答え である
- 会社がなくなっても有効な概念であり、会社名や製品名に触れなくても意味が成り立つ文 でなければならない
- 重要なのは、Purposeが自分たち自身ではなく「他者」と「世界」についての表明 だという点である
- 持続可能なエネルギーへの移行は、特定の会社が存在するかどうかに関係なくなお重要な目的であり、他社が同じ目的を掲げるなら 競争相手ではなく同盟 と見なす
- Khan AcademyがAI教育ツールを他の教育者に開放し、TOMSが持続可能な素材研究を共有し、Teslaが中核的なバッテリー技術の特許を公開し、Netlifyが Jamstack という概念を作って競合まで育てた事例は、Purposeを他者と分かち合う姿勢 の例である
- Purpose とは「自分たちより大きな世界の変化であり、誰もが喜んで参加したいと思う状態」
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N-year Vision: N年後に望む未来の状態
- N-year Vision は「自分たちが達成したい未来の状態」であり、会社の年齢を3で割った程度の値をNとする
- 遠すぎる未来では実行が難しく、近すぎると変化を含められないため、今日とは意味のある違いがありつつ、なお行動可能な距離 が必要になる
- Visionには少なくとも3つの要素が入っていなければならない
- 何を作ったのか(What did we build?): 製品/サービスの中核的な形
- Teslaは最初のバッテリー駆動の高級スポーツカー、Patagoniaは手作りのクライミング装備とTシャツ、Amazonは “Earth’s Biggest Bookstore” から始まった
- 誰のために作るのか(For whom?): ICPより広くてもよいが「みんな」ではだめで、Teslaは裕福なアメリカ人、Patagoniaは本気のアメリカ人ロッククライマー、Amazonは約2,000の書籍タイトルを探す顧客を対象に出発した
- どんな洞察が中核なのか(The insight): 製品や運営方法において会社を定義する独自の洞察
- Teslaは新しいバッテリーが最高の内燃機関車と競える性能を出せるという信念、
Patagoniaはクライマーが自然保護と環境への影響を重視するという点、
Amazonは実店舗と大規模在庫をなくし、オンライン・低在庫モデルで 価格と拡張性の優位を得る運営上の洞察 が中核だった
- Teslaは新しいバッテリーが最高の内燃機関車と競える性能を出せるという信念、
- 何を作ったのか(What did we build?): 製品/サービスの中核的な形
- Vision文は 1〜2行で簡潔だが、戦略文書ではさらに詳しく展開できる要約ヘッドライン の役割を果たすべきである
- 例として整理されたVision要約は次のとおり
- Tesla: 「バッテリーだけで走る、アメリカ人向け初の高性能高級スポーツカーを作る」
- Patagonia: 「本格的なロッククライマー向けに、最も頑丈で環境負荷を最小化した装備を作る」
- Amazon: 「オンライン専業とジャストインタイム在庫運用だけで、地球上で最大かつ最も安い書店を作る」
- 例として整理されたVision要約は次のとおり
- Visionは 明確で、宣言的で、具体的な未来を描く文 であるべきで、大胆だが現実的な水準 でなければならない
- N-year Vision は「自分たちが達成したい未来の状態」であり、会社の年齢を3で割った程度の値をNとする
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Next Milestone: 次に必ず到達すべき一歩
- Next Milestone は「次に最も重要な目標と、到達したかをどう見分けるか」と定義される
- ふつうはN-Year Visionから逆算して、「目標時点でどんな結果が必要か、その結果を生むためにいま何をすべきか」を整理する
- 一般形は次のようになる
- 「自分たちが[遠い未来の日付]までに[最終結果]を実現するには、[1〜5個の重要なプロジェクトや結果]が必要で、いま直ちにやるべきことは[近い将来のプロジェクト]であり、[客観的な観測指標]で達成可否がわかる」といった形
- さまざまな段階・状況の会社に対する Next Milestoneの例
- 10か月以内に 100万ドルの資金調達 を目指すスタートアップが、「6か月後に資金調達を始めるまでに有料顧客20社を確保する」を次のマイルストーンに置く
- 年間経常収益500万ドル(ARR)に達したものの、月次解約率5%のため成長の限界にぶつかった会社が、解約率2%で単価が5倍の顧客群の比率を増やすため、『新規流入顧客』のミックスを35/65に変えること を次のマイルストーンに設定する
- 燃え尽きた創業者 が2年以内に売上・利益を3倍に増やしつつ自分も残るために、「新しいCEOを採用し、自分と会社全体のソフトなリーダーシップ移行を行う」ことをマイルストーンに設定する
- 収益性の高いユニットエコノミクスを持つ会社が成長鈍化を解決しようとして、隣接市場の探索・実験を5件行い、その後1〜2の実行案を選ぶこと を目標にする
- 3年間ブートストラップしてきたインディーゲームスタジオが、18か月かける「夢のゲーム」を作れるだけのランウェイを確保するため、4か月以内に発売する高粗利DLCで月間利益を2万ドルまで引き上げることをマイルストーンに置く
- 35人規模のエージェンシーが、時間課金モデルからリカーリング収益モデルへ一部転換 するため、3つの再現可能で高粗利なサービスを選び、そのうち1つを月額サブスクリプション化し、大幅値引きを受け入れてでも 最初の10社のサブスク顧客を獲得すること を次の段階に設定する
- GitHubスター5万を持つオープンソースプロジェクトのチームが、ホステッド版と有料機能で1万ドルのMRRと2人のフルタイム保守担当を目指し、まず有料顧客50社の確保をマイルストーンに設定する
- 15年続く製造業を買収した後、販売チャネル拡大の前に モダンなERP導入・従業員再教育・COGS 12%削減で余剰キャッシュを生み出すこと を目標に据える
- 年間1,200万ドルARR、利益率90%のSeries B AIスタートアップが、カスタムコンサルティングを減らしてセルフサーブ型プラットフォームへ転換 するため、共通パターンを抽出してプラットフォームを作り、既存顧客3社を無事に移行させること を次のマイルストーンに設定する
- Next MilestoneはPurpose・Visionと違って、非常に具体的で、戦術的で、実行中心であり、測定可能な指標または明確な観察基準 を含まなければならない
- これを実務に落とし込むために、四半期ごとの戦略計画手法、Rocks/Pebbles/Sandによる優先順位整理、製品・ビジネス指標体系 のような道具へとつなげられる
- Next Milestone は「次に最も重要な目標と、到達したかをどう見分けるか」と定義される
Purpose-driven vs Purpose-derived
- Purpose-driven企業とは、Purposeが会社の本当の最優先目標 であり、売上・シェア・利益が減ってもPurposeを優先する行動を繰り返す組織である
- Purpose-derived企業とは、事業の成功の副産物として生じるPurpose を持つ組織で、世界に良いことをし、より大きな価値を目指すが、それが常にすべての意思決定を支配する唯一の動機ではない形である
- 大半の会社は後者に属するとし、代表例として Smart BearとWP Engine の歴史を紹介している
- Smart Bearは初期アイデアこそ不十分だったが、コードレビューのツールへと転換する中で 「ソフトウェア品質を高める」というPurpose を持つようになり、その後15年以上にわたってさまざまなソフトウェア品質ツールやオープンソースプロジェクトを加えながら、その方向を強めていった
- コードレビューをうまくやる方法をまとめた無料の本も提供していたが、その内容には 自社製品を買わなくても品質を高められる方法 が含まれていた
- WP Engineは「ブログがトラフィック急増のたびに落ちる問題」を解決しようという非常に実務的な課題から始まったが、結果として 「誰もが優れたWebサイトを運営できるようにする」というPurpose を得た
- Webサイトがなければ存在しないも同然の時代に、多くの人や企業はインフラ・性能・セキュリティを自力で解決できないため、高速で、スケーラブルで、安全なWebを代わりに引き受けるパートナー が必要である
- 危険な環境で真実を語らなければならない人々にとっても、オンラインで安全に声を上げる自由 を提供するパートナーであることがPurposeの一部である
- Smart Bearは初期アイデアこそ不十分だったが、コードレビューのツールへと転換する中で 「ソフトウェア品質を高める」というPurpose を持つようになり、その後15年以上にわたってさまざまなソフトウェア品質ツールやオープンソースプロジェクトを加えながら、その方向を強めていった
- Appleは初期には ホビー向けコンピュータを売る会社 だったが、21年後に “Think Different” キャンペーンを通じて 「違った見方をする人々、反逆者、ミスフィット」を尊重するPurpose を明確にするようになった
- このPurposeは後から定まったものだが、その後のAppleを象徴する中核的なアイデンティティとなり、Simon Sinekも繰り返し引用する例になった
- このように、会社が最初から「Why」で始まっていなくても、時間とともに Purposeを見つけ、それに沿って行動を積み重ねれば、Purpose-derived企業として定着できる
本物のPurposeを作る方法
「真の幸福は自己満足ではなく、価値ある目的への献身から生まれる」 - Helen Keller
- ホームページの “About Us” に格好いい文を載せるだけではPurposeは生まれず、実際に世界へもたらせるポジティブな変化を冷静に見極め、それを簡潔な文にまとめて 戦略・ポジショニング・目標に溶け込ませてこそPurposeが生まれる
- そうしてはじめて、先に述べた忠実な顧客、情熱的な従業員、差別化、レジリエンス、一貫性といった利点を得られ、個人としても「自分のしたことには意味があった」と言える状態に近づける
- 理想を言えば、最初から より大きなPurposeに引かれて始まり、その目的と財務的持続可能性を同時に達成する組織 を作るのが最もすばらしい
- 現代は「良いことをして豊かになる」ことが同時に可能な時代
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